ある企業に自分を高める努力を怠らない人がいました。誰よりも長く働き、熱心に課題に取り組む。その努力が認められ、30代にして役員に登用されました。
ところが彼をリーダーにした企画は、これまですべて頓挫しました。なぜなら、周りの人が動かないのです。「どうしたものか」と社長から相談を受け、この彼を分析してみました。
たとえば、会議の場で彼が意気揚々と発言していても、周囲はなぜか白けています。それでも彼は場を盛り上げようと一生懸命やっています。アイスブレーク、議論の可視化、KJ法……等々。多くのマネジメント本を読み、社外の研修に自費で出掛け、習得したスキルを実践していました。
「双方向のコミュニケーションを意識しています」。私とのインタビューでも、彼は優等生の回答をします。しかし、彼の周りに人は集まりません。いろいろ検討した結果導き出された、その原因は、彼が周囲の批判をすることにありました。
周囲を批判する人の問題点
彼の発言には、つねに他人へのネガティブな要素が含まれていました。そこに、「自分のほうが優れている」という意識が見え隠れするのです。こうしたタイプは、他人を蹴落としてでも上へ行こうとします。少なくとも、周囲の目にはそう映ってしまいます。
彼のように、何事も自分中心で、野心のある人と一緒に仕事をすると、周りの人はそのための「駒」にされてしまいます。
彼の自分を高めたいという意識は大いに結構です。伸び盛りの企業にとっては、むしろこういう人材は必要です。しかし、彼には周囲あっての自分、という意識が欠落しています。他者への気くばりがまったくありません。自分の利ばかり追求してはいけないのです。
私は彼を呼び出し、試しに、社内のほかの管理職の評価をしてもらいました。するとすべての人に対して良い点はわずかに5%、残りは問題点の指摘に終始しました。しかも大半は、「自分と比較して」の話。聞いていて気持ちがいいものではありませんでした。
一方で、彼自身のキャリアビジョンを聞くと、より大きな仕事をして社会を豊かにしたいと答え、その志はなかなか立派なものでした。
彼のなかには何かを成し遂げたいという思いが強過ぎて、足元が見えなくなっていたのです。周囲を動かすには、自分を捨てて奉仕する姿勢も必要です。
そこで彼にこうアドバイスしました。
「まずはあなたの志をみんなに感じてもらえるような存在になりましょう。いまは個人的な野心のほうが目立っています。この意味を考えておいてください」と。
志ある人には人が集まる。野心ある人からは人が離れる。リーダーとなるべき人は肝に銘じてほしいことです。(柴田 励司 : 株式会社IndigoBlue代表取締役)