「日本で1年で稼ぐ額が、下手すると1カ月で稼げる人もいるとなれば、行く人が出てくるのはある意味当然とも言えると思います。一方で、売春目的の出稼ぎはリスクが高く、逮捕されると人生のチャンスを棒に振ることにもつながる。これから出稼ぎに行く人がもっと増えると、さらに深刻な問題が起こりかねないと危惧しています」(同)

 入国拒否を受けた女性からの相談が相次いでいる行政書士の佐藤智代さんはこう語る。

「相談を受けるようになって初めて、出稼ぎビジネスがこれほど巨大なマーケットだったと知りました」

仲介やスカウトは男性でも…

 佐藤さんの元には、エージェントやスカウトなどを介して出稼ぎに行こうとし、強制帰国させられた女性たちからの相談もある。特筆すべきは、相談のほぼ全てが“女性から”だということだ。仲介に入るエージェントやスカウトなど、報酬を支払う側の大半が男性とみられるが、矢面に立たされ、もっともリスクを背負わされるのは、渡航する女性たちであることに、強い憤りを感じているという。

「相談に来る女性たちは、穏やかで物腰の柔らかなタイプが多く、落ち着いてコミュニケーションが取れる若い女性が大半という印象です。正直なところ、“こんな方がなぜ売春目的で”と思う人がほとんど。いまの状態は、女性だけが裁かれている印象で、非常に理不尽だと感じます。もちろん、売春目的で入国しようとする女性側にも、落ち度はあります。けれども自分は決して表に出ず、リスクは女性に背負わせ、隠れ蓑の中で女性たちを動かして暴利を貪っている仲介業者が、より悪質だという思いも拭えません」(佐藤さん)

 警視庁は10月3日、東京・歌舞伎町で売春の客待ちをしたとして、1〜9月に売春防止法違反の疑いで20〜46歳の女性80人を現行犯逮捕したと発表した。

 コロナ禍での行動制限が緩和され、客待ちの様子がSNSで拡散されたことで、都外からも女性や客が集まるようになっており、警視庁は取り締まりを強化している。一方、性風俗業界の関係者からは、「取り締まりの強化によって、国内で思うように稼げない女性が、海外出稼ぎに目を向ける危険性も高い」とする声もある。

 より高い収入を求め、日本人が海を渡り、出稼ぎをし始めた昨今。実態の掴みきれない不法就労の動きがちらつくが、これはまだ序章に過ぎないのかもしれない。

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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