Netflixシリーズ「愛の不時着」独占配信中

「愛の不時着」の流行

 ドラマにも地殻変動が起きていた。韓国では「ミセン-未生-」のような職業ドラマや「応答せよ」シリーズのように地に足がついたヒューマンドラマが続々と生まれていた。2016年のAERAでの取材で現地の複数のドラマ関係者が次なる可能性として語っていたのは、「パソコンやスマートフォンでの視聴用に制作されるウェブドラマ」。実際、韓国は18年、すでにイ・ビョンホン主演の歴史ドラマ「ミスター・サンシャイン」をNetflixで配信し、OTT(映像配信)市場進出への本気を見せていた。

 マグマのように地下でわき立っていた熱量が、一気に噴き出したのは、コロナ禍だった。南北分断をモチーフにした「愛の不時着」、不正やジェンダー問題を描く「梨泰院クラス」など社会派ドラマが日本で流行り、BTSをはじめとするK-POPがオンラインコンサートにいち早く乗り出してさらに多くの人々の心をつかんだ。「愛の不時着」に宿るノスタルジアや「梨泰院クラス」への共感、ファッションやメイクも含むK-POPへの憧れ。20年間の韓流を振り返ると、第4次ブームは偶然ではなく、必然だったと言えるかもしれない。

韓国をもっと知りたい

 韓流ブームは、ファンの人生に少なからぬ影響を与えた。前出の橋本さんは、2017年にK-POP専門のダンススクール「BRIDGE」を立ち上げた。韓国の芸能事務所にこれまで練習生約20人を送り出し、3人がデビューした。出井さんは女性の人生にひそむ困難や差別を記した小説『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んで「日韓の問題は地続きだ」と感じ、「韓国をもっと知りたい」とソウルに留学。帰国後は、大学のゼミでジェンダー問題に取り組んでいる。

 ところで、韓流の立役者のヨン様といえば、ドラマ「ドリームハイ」(2011年)に特別出演した後は、俳優としての活動は休業状態だ。15年に元ガールズグループ「Sugar」のメンバーと結婚して、2児の父親になった。

2度目の来日で、成田空港で出迎えるファンに手を振るペ・ヨンジュン=2004年11月(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 ペ・ヨンジュンのイニシャルを冠するコーラスグループ、BYJコーラスでペ・ヨンジュンが主演したドラマや映画の主題歌などを歌い続けている80代の女性は、今も毎晩DVDでヨン様のドラマを見ている。来春には、ファン歴20年にして初めて韓国に旅行する予定だ。

「主人が韓国を嫌いなので、渡韓はずっと我慢していたんです。夫婦の関係も大事ですから」

 旅のお供は、母の推し活を応援してきた息子と、K-POPや新大久保が大好きな孫娘。

「孫の中学受験が終わったら行こうって約束しています。『冬ソナ』のロケ地にも行ってみたいですね」と、声を弾ませた。

(ライター・桑畑優香)

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AERA 2023年10月30日号より抜粋

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