東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役

 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

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 釜山にある「在韓国連記念公園」に行ってきた。朝鮮戦争における国連軍戦死者と近親者を安置した墓地である。戦時中に造成され、1955年に国連の施設となった(現在は韓国を含む国際委員会の管理)。

 13万平米の広大な敷地には2千人を超える死者が眠り、国連軍に参加・支援した22カ国の旗が掲げられている。併設する記念館には各国が送り込んだ部隊の写真や記念品が展示され、連帯が強調されている。公園を望む高台には、2014年に新たに「国連平和記念館」も建てられている。

 朝鮮戦争は1950年に勃発した。70年以上前の話だが完全な過去ではない。分断は続いている。戦争自体が正式には終結していない。1953年に結ばれたのは休戦協定で平和条約ではない。いまも韓国には国連軍が駐留する。韓国の男性は兵役義務を負う。昨年末にはBTSのメンバーの入隊が話題となった。朝鮮戦争はいまだ生きた出来事なのだ。

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東浩紀

東浩紀

東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

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