いけがみ・まさき/1962年生まれ。ジャーナリスト。著書に『ルポ「8050問題」高齢親子“ひきこもり死”の現場から』(河出書房新社)など

 実際に、持ち家がひきこもりのきょうだいに相続され、「自分は社会に出て頑張っているのに、何もしていないきょうだいが相続できるのはおかしい」といった不満をはっきりと口にする相談者も少なくないという。

「当事者の親は動かずにいる一方で、社会の中で現役の働き手として活動しているきょうだいたちは情報も収集する。公的機関はあてにならないと考えれば、民間支援に頼るなど行動に移す人も多いのです」

 そして、きょうだいの年齢が40代後半以上であれば、親世代と同様に「社会復帰=働く=正規雇用」という昭和的発想が刷り込まれていて、就労による復帰にこだわりがちだという。

「コロナ禍以降、在宅ワークが増え、雇用形態も多様化しているのに、『ボーナスもない、生活が安定しない』など、新しい価値観に対応しきれていない印象です。そんな時代とのずれも家族関係の不和、ひいては崩壊につながりかねません」

 今、「7040」問題予備軍というべき“グレーゾーン”にいる家族は増えているという。内閣府の2022年度の「こども・若者の意識と生活に関する調査」によると、ひきこもり状態にある40~69歳のうち9割以上に就業経験があった。

責める気持ちあった

「精神疾患などが要因のケースもありますが、社会的要因がきっかけの人も多い。職場での人間関係のストレスやコロナ禍で職を失った結果、ひきこもる人もいます。仕事に就けずにいる瞬間を切り取れば、怠けていた、努力が足りなかったと見られ、自責の念に駆られ、追い詰められていく。誰もがひきこもり状態に陥る可能性はあるのです」

 実は、池上さん自身も、なかなか自立できずにいる弟を抱える当事者だった。四つ下の弟は人付き合いが苦手で、職を転々としていた。

「語学が得意で夢もあり、弟なりに頑張っているんだろうと思いつつ、なぜ長続きしないのか、努力が足りないんじゃないかと、当時の私はどこかに弟を責める気持ちがありました」

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