日本プロレスを飛び出し、新日本プロレスを創設したアントニオ猪木の大ファン。

「疑って見る猪木って最高に色気があるんですよ。じゃあ、実際の見た猪木がよければいいじゃないか。そうやって自分の中で折り合いをつけるわけです」

 だから、「半信半疑」という言葉が好きだと言う。半分疑い、半分信じる。その中間が一番物事をみるのにドキドキして楽しいからだ。

「政治のニュースもそう。これどっちなんだろうと読み比べをしていく。この記事よくわかんないな。もう少し情報が出てこないと判断がつかないとか、そういう感じで読んでいます」

 鹿島のニュースの見方、視点の面白さを高く評価しているのが政治ジャーナリストの鈴木哲夫だ。

「お笑いは風刺だし、風刺はジャーナリズム。ジャーナリズムの役割は、高い壁の向こう側で何が起きているかを探し、日常みんなが当たり前のように見ているけど、気が付かないことを再発見することです。もう一つはへそ曲がりであること。鹿島さんは、どれも持っている。だから彼はジャーナリストだと思います」

「合同結婚式になぜ出た?」沖縄県知事選で突撃取材

 もう一人、鹿島のセンスを実感したのが、畠山理仁。泡沫(ほうまつ)候補を含めて全員から話を聞くユニークな「選挙取材」で知られ、鹿島が「選挙取材の師匠」と尊敬するジャーナリストだ。畠山は昨年の沖縄県知事選挙の取材で、忘れられない経験をした。それは候補者の佐喜眞と旧統一教会(世界平和統一家庭連合)を巡ってのことだ。2019年に、旧統一教会主催の信者同士のカップルを祝う式典に佐喜眞が出席していたことが明らかになった。畠山は当然質(ただ)すつもりでいた。ただ最初は当たり障りのない話をして佐喜眞との距離を詰め、最後に聞こうと考えていたのだ。そんなある日、宜野湾市内で演説を終えた佐喜眞がクルマに乗り込み発車する寸前、鹿島がズバッと聞いたのだ。

「台湾の合同結婚式に出ちゃったのはどういう理由なんですか」

 佐喜眞は笑って答えない。「記憶力がない? 記憶がない?」と更問いすると、佐喜眞はウィンドーを閉めにかかる。クルマが走りだす。その瞬間、佐喜眞が右手で虫を追い払うような仕草(しぐさ)をした。カメラはそれをしっかりと捉えた。

「負けた!と思いましたね。ジャーナリストとして甘い。本来ジャーナリストがやらなければならないことをやられてしまった。あれは突撃取材の基本中の基本。お見事としかいいようがない」

 ただ、いまでこそ、鹿島は本職をうならせる時事芸人として独自のポジションを獲得しているが、芽が出るのは遅かった。

(文中敬称略)

(文・高瀬毅)

※記事の続きはAERA 2023年9月4日号でご覧いただけます。