日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、その店主が愛する一杯を紹介する本連載。今回は、埼玉県日高市の名所「巾着田」のほとりにある名店「とんちぼ」の店主・丸岡匡太郎さんの愛する名店「麺屋 真心」をご紹介する。
■集客に苦戦を強いられる日々、先輩店主がつないだ「真心」
埼玉県日高市の武蔵高萩駅から1キロメートルほど歩くと、のどかな町の中にぽつんと一軒のラーメン店が現れる。「麺屋 真心」だ。決していい立地ではないが口コミだけで人気店となり、地元客からラーメンファンまで広く愛されている。
看板メニューは「特製中華そば」。バラロールチャーシュー、低温調理チャーシュー、穂先メンマ、味玉、ノリ3枚、ほうれん草、ナルトが盛り付けられている。
ダシの分厚さにまず驚く。ハマグリにシジミ、煮干しなどをブレンドしたスープで、醤油は地元・埼玉県の弓削多醤油を、油には比内地鶏を使う。岩手県産もち小麦粉「もち姫」を使用したムチムチとした麺で、トレンドを押さえながらもじんわりおいしい一杯に仕上がっている。
山形県出身の店主・日塔涼さんにとって、ラーメンは幼い頃から身近な存在だった。日本有数のラーメン県である山形県では、外食といえばラーメン、家にお客さんが来るとラーメンを出前するのが当たり前だった。高校時代から料理を学んだ日塔さんは、菓子メーカーに就職後、ラーメン職人を志し、東京都の名店「青葉」「無敵家」を渡り歩いた。
26歳で独立し、2018年3月に「麺屋 真心」をオープンする。日高市の自宅を改装し、1階を店舗にした。立地のことは全く気にせず、おいしいラーメンさえあれば人が来ると思っていた。しかし、周囲にはシャッターが開かない店がたくさんあり、バスも通らないエリア。さすがに「攻めすぎ」の場所だ。
オープンから1カ月は地元のお客さんが集まったが、それ以降、集客に苦戦を強いられた。毎日のようにスープが余っては捨てるという日々。心が折れかけた頃、「真心」は1周年を迎えることになった。
「1周年の時に地元のお客さんからたくさんのお祝いをいただいたんです。皆さんからたくさん『おめでとう』と言っていただき、お客さんからラーメンを作らせていただいていることに気づかされたんです。お客さんが来てくれるからこそラーメンが作れるんです。店名にある『真心』を忘れていました」(日塔さん)