「個人差の方が大きい脳の男女差を持ち出して男女で得意分野が異なることを前提とすると、個別最適化が妨げられます。本来は個々人が自分にあった働き方をして自分に適した役割を担うべきなのに、そうできない、つまり個性が生かされる社会がやってこないのです。さらに、こうした根拠のない性別によるカテゴライズは、『男なのに地図が読めないなんて恥ずかしい』とか、『女のくせになんで共感性が低いのか』という発想につながります。本来は不要な生きづらさを生んでしまうんです」

 人間の脳や能力を石に例えると、個々人で大きさも形もさまざまだ。それを画一的な形態に押し込めて積み重ねる「レンガモデル」より、それぞれの形や大きさを生かして組み合わせる「石垣モデル」に考え方や社会の仕組みをアップデートさせるべきだと村中さんは言う。

「多様性の尊重」は、既に社会の大原則として理解されつつある。多様性とは、男性と女性の「得意」を役割分担することではなく、個人の「得意」を役割分担することに他ならない。男性脳・女性脳神話からの決別のときだ。(編集部・川口穣)

AERA 2023年8月28日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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