八回表、聖光学院が本盗を成功させ同点に。王者も必死だった

ノーマーク校が強豪校を撃破する──。前評判を覆すジャイアントキリングも高校野球の醍醐味だ。まさかの展開に当事者たる球児は何を思っていたのか。真夏の球場で見せた番狂わせを振り返る。「甲子園2023」(AERA増刊)の記事を紹介する。

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 第103回の福島大会準々決勝で大波乱が巻き起こる。高校野球史上最長に並ぶ14大会連続の甲子園出場を目指した聖光学院が敗れた。絶対王者を倒し、福島の勢力図を変えたのは第7シードの光南。

 光南はエース左腕・星勇志の好投が勝利を引き寄せた。130キロ台前半の直球に切れのあるスライダー、チェンジアップを織り交ぜて四回2死まで完全ペース。その後、得点圏に走者を背負っても要所を締めて、9回5安打1失点で投げ切った。

 この試合前、中1日のマウンドで「体はバキバキ」という星に渋谷武史監督が声をかけた。星が振り返る。

「おい、今日はいけるかもしれないぞって。どうしてかはわかりません。両チームの雰囲気を見て感じたのかもしれませんが、勇気づけられたのを覚えています」

 緊張の初回の投球。先頭打者を打ち取って手ごたえをつかんだ。

「気持ちでは負けないようにいこうって臨みました。自分の投球や打ち取った感じから、今日は打たれないかもって、なんとなく感じました」

 その裏、先制点を挙げるとチームに勢いがでて、その流れに乗って「結構スイスイ」と投げた。八回に同点に追いつかれても戦意を失うことはなかった。

「同点シーンが適時打でもなく、犠打でもなく、ホームスチールだったんです。相手も相当焦っているんだなって。どこか冷静に見ていました」

 直後の八回裏、光南の攻撃。2死満塁から6番・金沢が狙い通りの直球を振り抜いて左越え3点適時打を放ち、これが決勝点となった。

「実はこの金沢の前の打者が僕だったんです。好機に巡ってきて、今日の俺、めっちゃ持ってるなぁなんて調子に乗って打席に立ったら凡打。だから祈るような気持ちで見守っていました」

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甲子園に届かずに夏が終わった