元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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私には一つ違いの姉がいて、まあこれがよくできた人で私と違って美人で頭も良くて子供の頃から友達に囲まれて、私はそんな姉が羨ましく金魚のフン子と言われながら後をついて回ったモノである。
そのアネキが60歳の誕生日を迎えるという。
60って還暦じゃんと言うと、姉は、そうなんだよお祝いにウナギ食べたいから一緒に鰻屋行こうと父を誘っている。よっしゃと嬉しそうな父。足腰が弱って落ち込みがちな中、当たり前に頼られたことが誇らしいのであろう。こんなふうに「やってあげる」じゃなく「やってほしい」と頼むアネキ、相変わらずやるなと思う。楽しそうなので私も一緒に行くことにした。
当日、メニューをあれこれ検討して鰻丼と料理長オススメの鰻サラダを頼んだところで、父がおもむろに「そうか60になっちゃったか……」。ナヌッ、なっちゃった、ですと? いやお父さんそういう言い方は……と私と姉が同時に口を尖らせると、父は慌てて「自分を振り返ると60代は黄金時代。お母ちゃんと海外も行ったし……」と論点をずらしてスマホで母の写真など見せにかかるので、私も姉も問題発言は聞かなかったことに。父も悪気はないのだ。ただ生きてきた時代が違うのである。