研究本部が転居してもう30年余りたつ。鎌倉市へ寄付したが、4階建ての横長のまま緑の中に残っている。自分がいた「機械部屋」もどこかすぐに分かる(撮影/山中蔵人)
この記事の写真をすべて見る

 日本を代表する企業や組織のトップで活躍する人たちが歩んできた道のり、ビジネスパーソンとしての「源流」を探ります。AERA 2023年8月14-21日合併号の記事を紹介する。

【この記事の写真をもっと見る】

*  *  *

 1980年代の終わり、入社して配属されていた神奈川県鎌倉市の鎌倉研究本部で、静岡県西部の住宅メーカーの営業強化策の調査・分析を受け持った。20代が終わるころ、当時は親会社だった野村証券の浜松支店に紹介された案件だ。

 住宅メーカーは、地域の大きな課題である東海地震や東南海地震への備えを重視し、大学の研究室と組んで手がけていた耐震構造に特徴があった。展示場へきた客たちを、バスで建築現場へ連れていき、梁の工事などをみせて「こんなに丁寧にやっています」と紹介。その後で契約して本格的な設計に入る、という営業手法だった。でも、成約数に、満足していなかった。

住宅商談の客がどこで外れるか展示場で分析

 依頼を受け、契約までの過程を10段階に分けて、展示場にきた客で計測した。結果を、客が100人きたら第1段階で何人が商談から外れ、第2段階でこれだけ減っているという具合に示すと、住宅メーカーの社長は「営業は、こういうふうに分析するのか」と感心してくれた。次いで「ここで大きく減っているので、どうやれば増やせるかを考えましょう」と提案する。

 会社のバッジを付けて展示場で客の対応をさせてもらうと、どこかで客の本音が出る。「現地・現物」の重視で、後輩と2人でバス見学にもいって、客の感想などから「このへんで、商談から離れる理由が出てしまうのか」と分かってきた。

 一方で、営業担当者の販売戸数を調べると、1人の月平均は6、7戸なのに、15戸も売っているエース級がいる。その違いを、行動分析した。それぞれ、離れる客が多い段階で何をやっているか。エース級の人は、客の心をつかむ工夫をしていた。そのノウハウをまとめ、何が足りないかの仮説によって「皆さん、こうやってみましょう。そうすれば、ここで離れている客がつかめますよ」と説明する。

 調査・分析でも、いま主力業務の一つになっているコンサルタントでも、キーワードは「仮説」だ。どこに問題があるかがピンとくる直感も大事だが、仮説を立てる力も要る。現場の調査から組み上げて結論が出るのではなく、始めに結論として仮説を持ち、調査はそれを検証する手段だ、という発想だ。

次のページ