
data:image/s3,"s3://crabby-images/83e6e/83e6eed6ea657150a70ce4dafe95c71b0f8694d6" alt="選手会設立記者会見の模様(右から2番目が岡田選手会長)【提供=JBPA】
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昨今、「クラウドファンディング」という言葉を耳にする人も多いだろう。ネットを利用して資金調達を行う手段なのだが、出資者にもさまざまな特典がある。例えば、これによって集めた資金で製品化されたモノを譲ってもらえたり、売り上げの一部が配当されたりする。
その特徴は、資金調達する側も資金提供する側も、個人で参加できるという点だ。一般の金融機関やベンチャーキャピタルで資金調達しようとすると審査基準に合わないために資金調達ができないケースもある。だが、クラウドファンディングであれば、出資者の個人的判断で資金提供できるほか、少額から出資できる手軽さもある。
実は、資金調達で苦労している業界として、スポーツがある。よほどの人気スポーツ、人気チームでない限り、金融機関は投資を渋ることが多い。成績は水ものだし、そもそも保有資産が少ないからだ。そのため、資金難に苦しんでいる多くのスポーツチームや選手は少なくない。
だが、スポーツこそ、クラウドファンディング向きなのではないか。金融機関は投資しなくても、ファンならば「好きなチームのために一肌脱ごう」と考えても不思議ではない。実際に、選手の海外遠征の資金を調達したり、海外の大会に参加するための資金を募ったりする「アスリート支援型」のクラウドファンディングもたくさんある。
そんななか、クラウドファンディングで再生しようとしているスポーツチームがある。NBL(ナショナルバスケットボールリーグ)所属の和歌山トライアンズが、“寄付”という形で集めるファンドレイジングサイト「JapanGiving(ジャパンギビング)」で募金活動を行っているのだ。
このチームは、2013年に解散したパナソニックトライアンズを前身とするチームであり、企業所属から離れて、和歌山バスケットボール株式会社が運営していた。しかし、2015年に入って同社が事業を停止、チーム解散の危機に立たされた。運営は和歌山県バスケットボール協会に移ったものの、資金面で問題が残されていたのだ。
どのような経緯で、クラウドファンディングの活用を開始したのか。一般社団法人・日本バスケットボール選手会会長の岡田優介氏はこう話す。
「今年1月、和歌山トライアンズが解散の危機にあるという情報をキャッチしました。選手報酬が大きなネックになっていたのです。しかし、特定のチームを選手会の資金で直接支援するわけにはいかない。チームの力、所属選手の力で資金を集められなければ、チームは存続できない。そこで、チームの状況を知ってもらい、より多くの支援を集める方法としてクラウドファンディングを選びました」
当の選手たちは、この状況をどのように感じているのだろうか。和歌山トライアンズに所属する寺下太基選手はこう語る。
「運営主体が和歌山県バスケットボール協会に移って、もうチームは大丈夫だろうと考えていたのです。ところが、実際には危機的状況だと知らされ、同じタイミングで選手会からクラウドファンディングで資金調達してはどうか、という提案を頂きました。自分たち選手がチームを支えなければいけないという気持ちでクラウドファンディングを始めたのです。実際、試合会場ではブースター(ファン)のみなさんからクラウドファンディングについて質問されたり、特典のプレゼントが届くのを楽しみにしているという声も耳にしたりしました。あっと言う間に資金が集まり始め、多くの方々が応援してくださることに感謝しています」
企業スポンサーの利点もある一方、企業の意向、業績によってチームの存続が左右されるという問題はマイナースポーツではありがちな話だ。だが、直接、ファンがチームを支えることができれば、そのリスクは軽減できる。いったん、和歌山トライアンズの危機は去った。しかし、これも継続されなければ意味がない。そのために選手は全力でプレーし結果を残すことが求められるだろう。
「これまでもファンの方はチケットを買って試合を見てくださったり、グッズを買ってくださるなど、資金面でチームに貢献してくれていました。今回のケースでは、クラウドファンディングという形で、貢献してくださった。形は変わっても、ファンがチームを支えてくれていることには変わりはないと思っています」(前出の岡田氏)
スポーツ界にとって、クラウドファンディングという方法は、ファンと選手をつなぐ新たな「応援」の方法なのかもしれない。話はプロスポーツに限らない。アマチュア選手でも、世界的レベルにありながら遠征費に事欠く選手は数多い。
2020年、東京でオリンピックが開催される。そこで活躍が期待されるアスリートに資金を援助してみてはどうだろうか。もし、その選手がオリンピックに出場したら、観戦の楽しみも大きくなることは間違いない。
(ライター・里田実彦)
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