そこで石渡さんは、日本における主流であるドリップ式の淹れ方をメルボルンでも実践。日本メーカーに依頼して作った特製の二つ穴ドリッパーと日本製フィルターを使って、コーヒーを淹れている。
「コロナ禍の間、家でドリッパーを使ってコーヒーを淹れ、そのおいしさを知った人が増えました。そのためドリップを求めてうちを訪れる方も増え、今ではエスプレッソ80%、ドリップ20%くらいになっています」
じわじわと日本風ドリップ式コーヒーのファンが増えているのである。
なぜこのように日本の文化が受け入れられているのか。メルボルンに生まれ育ち、今は東京在住の国際広報コンサルタント、ニコラス・ヴァン・サンテンさんは、こう説明する。
「もともとオーストラリアは人種差別があまりなく、移民や他国文化を受け入れてきたという土壌があります。たとえば第2次大戦後にギリシャ人が移住を続け、メルボルンはアテネに次いで世界で2番目にギリシャ人が多く住む街と言われています。ベトナム戦争後はベトナムからの移民が多く、街にはたくさんのレストランが開かれ、オーストラリア人はフォーなどの料理をおいしいと食べています。日本の文化の良い点を知り、取り入れたい、楽しみたい人が増えてきたということでしょう」
■黒ビールにうどんまで
コーヒーの他にオーストラリア人が好きな飲み物といえば、なんといってもビールだ。メルボルンにはマイクロブリュワリーが30~40カ所もあり、それぞれが味を競い合っている。
4年前に開店した「モリー・ローズ」は料理にも力を入れ、食事と飲み物のペアリングを売りにしている。おまかせコースを選択すると、それぞれの料理に最もふさわしいビールを店が見繕って供するのだ。
前菜でカンガルーのタルタルが出たので、オーストラリア料理が続くかと思いきや、終盤に「ヌードル」が運ばれてきた。汁なしうどんの上にマッシュルームと刻んだ高菜漬けとゴマがたっぷり。うまい! 海外でこれほどうまい日本式麺を食べたのは初めてだ。