カフェ「CIBI」は食器や食材といった日本製品の販売だけでなく、文化の発信地でもある。この日は味噌のワークショップが開かれた(撮影/渡邊美穂 取材協力/オーストラリア大使館)
カフェ「CIBI」は食器や食材といった日本製品の販売だけでなく、文化の発信地でもある。この日は味噌のワークショップが開かれた(撮影/渡邊美穂 取材協力/オーストラリア大使館)
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 経済が28年連続で成長し、コロナ後も急速に復興を遂げているオーストラリア。豊かな生活をする人々を魅了する日本文化とは。AERA 2023年7月17日号より紹介する。


17ヘクタールの温泉にWAGYU!? 日本文化が浸透するオーストラリア】より続く


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 草津温泉に刺激を受けてできたスパに、グラスフェッドのワギュウ。オーストラリア流に進化させた日本文化をめぐる旅は、まだまだ続く。


 メルボルンは数多くのカフェがしのぎを削ることで知られる。日本とは違いアメリカ系チェーン店はほとんどなく、もっぱら地域密着型の店舗が並ぶ。


「これがメルボルン独自のコーヒーだ、という味の特徴はないんです。それぞれの店で味が違い、客は自分の好みを出す店に通い続けます。カフェとは、店の人と顔なじみになり、家族や友だちと集う場。ほとんどの店が朝の7時か8時から営業を始め、午前と午後の2回顔を出す方もいらっしゃいます」


 と語るのは、人気カフェ「CIBI」のオーナー・田中善太さん。カフェはサロン的な役割を果たすわけだが、田中さんの店では、新潟県燕市産の食器類、愛媛県今治市産のタオル、日本各地で作られた陶器類などを販売するスペースを設けることで独自色を出し、客とのコミュニケーションを図っている。


「日本のテイストを受け入れる土地なのでしょうね。今治のタオルを買った人は『朝のシャワーの後、このタオルで身体を拭くと幸せになれる』と言っていますし、釉薬のある陶磁器を見て驚きの声をあげる人もいます。ここで土釜を買って、ご飯を炊いて食べる人も増えてきました。スーパーではオーストラリア産米の他に、日本産米も売っていますから」(田中さん)


 最近、当地の人から人気を集めているのは、YUZU(柚子)を使った商品。ジュースやジャムがよく売れているそう。


 この街のカフェではもう一人、日本人が顕著な活躍をしている。「マーケット・レーン・コーヒー」で焙煎士をしている石渡俊行さんだ。


「昔はメルボルンの人はイギリスの影響で、紅茶を飲んでいたそうです。第2次大戦後、イタリア人がたくさん移住してきて、エスプレッソ文化が根付きました。ですから今もエスプレッソベースのコーヒーが一般的で、一番飲まれているのはラテです。でも私は、コーヒーの味を楽しむのには、フィルターで淹(い)れるのが最も良いと思っています。液体が紙を通過するときに豆のオイルが吸い取られることで、豆の持つ微妙な違いを感じ取れるからです」

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