それなりの挨拶をして、それなりのものを頂き、それなりの小言を言いつつ、スイカと番茶を食べた後の洗い物を弟子がしている音を聞きながら、ひげを剃る私。これから寄席へ出勤だ。弟子どもは出かける45分前にやってきた。これタイミングとしてはちょうどいい。そういえば私も昨日、師匠の出かける40分前に師匠宅へうかがった。ほー、このあたりは師弟で間がいい。これが落語に生きればよいのだが。
家を出る前にスイカをカットして冷凍庫に補充する。今日は番茶の葉を入れる紙のパックを買わねば。あれがないとお茶を入れにくい。
家のおもてで弟子が待っている。「ったくまあ、お前、一番弟子なんだからもうちょっとしっかりしてくれよ」と言う顔をしながら歩き出す。後から二人がついてくる。暑苦しい。早く帰って、スイカと番茶で一服したい。そういえば、書きかけの原稿はいつ書くのだ。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!