春風亭一之輔・落語家
春風亭一之輔・落語家

 落語家・春風亭一之輔さんが連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今回のお題は「スイカ」。

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 お中元で丸々としたスイカを二つ頂いた。ありがたいね。ただ我が家は五人家族とはいえども、なかなかに減りが遅いのだ。

「切ってあれば、食べるんだよ」とのたまう子供たち。仕方なく包丁を持つ。丸のまま冷蔵庫には入らないので、まず半分に切る。片方はラップを掛けてそのまま冷蔵庫の野菜室へ。もう片方はすべて一口大にカットしてタッパーに入れる。半分は凍らしたりなんかして。

 しばらくするとなくなっている。いつの間にか食べているようだ。お前らカブトムシか? いや、現代においてカブトムシにスイカはNGらしい。栄養が足りないし、水分が多過ぎておなかをこわすようだ。カブトなんか被ってるくせに案外とナイーブね。昔のカブトムシはムシャムシャとごきげんにスイカを喰らってた印象だけど「おなかピーピーだよー、でも美味いなー、でもピーピーなんだよー、でも止まらないなー、でもおなか痛いー、なんでこんなに美味しいんだよー、トイレ行きたいー、あー、もうダメだー、オレは、オレは、もはやスイカを通すだけの、ただの『管』だー! でも美味しいーっ!」と、恍惚としつつ、ピーピー悶え苦しんでいたのか。今は虫用ゼリーでよいのだそうだ。でもやっぱり「カブトムシにはスイカ」が絵になる。それにしても凍らせたスイカは美味い。そして番茶と合う。

 こんなボンヤリ文章を書いてる午前中、3センチ角の凍らしたスイカに熱い番茶で一息ついていると、一番弟子と二番弟子が「夏のご挨拶にうかがいました!」とやってきた。落語家のお中元は前触れもなく、急にやってくる。しかも直接。あいだに配送業者を挟まない。アポをとったり、郵送だったりすると「無精するな!」と怒られるのだ。足を運んで、先方が居なかったらまた出直すのだ。このご時世になかなかあり得ないルールがいまだに残っている。ただ我々も汗を拭き拭き「めんどくせえな~」と愚痴をこぼしながら、けっこうそれを楽しんでいる。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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