弟子たちは恐らく私が確実に家に居る日を選んで来たのだろう。「一之輔」で検索とかかけてるのか。まぁ居てよかった。昨日なら居なかったところだ。床屋に行ってたからね。なぜ訪問されるこちら側がプレッシャーを感じなくてはならないのか。それでも書きかけの原稿をおき、「ごくろうさん」と言いつつ、スイカと熱い番茶でもてなす。ここが普通の師弟とちがう。うちの一門はだいたいそんなかんじ。

 弟子どもが「いつもありがとうございます、よろしければこちらお納めください」みたいなことを言いながらお中元の品を渡してくる。こんな時、お歳暮なら口頭で「今年一年お世話になりました」という挨拶がしっくりくるのだろうが、お中元はなんと言ったらよいのだろう。「上半期はありがとうございました」? 「暑さに負けず、頑張ってください」? 「下半期もしまって参りましょうー」? どれも収まりが悪い。暑さのためか思い浮かぶフレーズから受ける印象がどうも気やすいかんじ。まぁうちの一門にはちょうどいい。

 熨斗紙にはプリントで「お中元」と書かれている。「ん? お前、自分の名前は書かないのか?」「あ! 忘れてました!」。このやりとりを聞いた二番弟子が「兄さん、去年も忘れてましたよ」と半笑いでチャチャを入れる。兄弟子の顔を見ると二、三日ほったらかしのような無精ひげ。「……それにひげぐらい剃ってこいよ」「……すいません」。しかも短パンだ。「……長いズボン持ってないのかよ?」「あるんですけど」「そりゃあるだろう」「慌ててまして」「お中元の挨拶くらい襟のついたシャツ着て、身なり整えて来いよ」「はい」

 わざわざ足を運んでおきながら、その別次元の無精さで小言を食らうという……もうなにがなにやら。そんなこと言いながら私も昨日、師匠のところへTシャツで挨拶に行ったのだが。まぁ、なんだ。「自分のことは棚に上げる」それが私のモットー。

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