「こうして単価がわかり、悲しいのひとことです。コロナ禍でマスク不足のなか、アベノマスクは必要だったのかもしれません。けれど、それを末端で製造している現場がどんな厳しい状況のなか、どんな条件で仕事をしていたのかを政府には知ってほしかった」

 一方で、Aさんに仕事を発注していた卸業者のB社。

 コロナ禍前の2019年、民間調査会社の調べでは約6億円の売り上げがある。アベノマスクの製造を国の契約業者から大量に受注したのは2020~21年。21年度の決算では売り上げが13億円を超えていた。

「国はどうして生産者にもきちんと労働に見合った報酬を払うような仕組みにしてくれなかったのか」

 とAさんは嘆く。

 また、アベノマスクの検品を1枚1円で受けたという別の業者も、

「あまりの低さに絶句したけど、コロナで仕事の発注がないので飛びつくしかなかった。国からの単価が1枚130円とか150円の単価なら、10円はこっちにまわせたはず」

 と激しく憤っていた。

 上脇教授は、

「アベノマスクの単価は、本来隠す必要がないものです。裁判はしない、単価も出さない、というのはアベノマスク事業がそれだけずさんで役に立たない事業だったのではないでしょうか。さすがに裁判所も国の隠蔽(いんぺい)体質はNOだと判断した結果の開示だと思います。アベノマスクは国民からの評判もよくなかったし、効果についての評価も高くはなかった」

 と説明した上でこう指摘する。

「製造現場には十分な金額で発注されず、弱い立場にしわ寄せがいくということは、国と直接契約できた大きな会社だけが守られ、潤ったことになります。アベノマスクは国民のプラスにはなっていません」

(AERA dot.編集部 今西憲之)

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