宮城大蔵(みやぎ・たいぞう)/NHK記者を経て一橋大学大学院博士課程修了。博士(法学)。上智大学教授などを経て現職。専門は国際政治史・日本外交
宮城大蔵(みやぎ・たいぞう)/NHK記者を経て一橋大学大学院博士課程修了。博士(法学)。上智大学教授などを経て現職。専門は国際政治史・日本外交

■国益考えるタイミング

 とはいえ、変化も見られます。先の主要7カ国首脳会議(G7サミット)の「首脳コミュニケ(声明)」は印象的でした。「中国と建設的かつ安定的な関係を構築する用意がある」「台湾に関するG7メンバーの基本的な立場(表明された『一つの中国政策』を含む)に変更はない」といった文言が盛り込まれました。最近の日本国内のトーンと比べると、かなり穏当で、頭を冷やすよいきっかけになるのではないでしょうか。

 近年の日中関係を振り返ってみれば、民主党政権時代の尖閣沖漁船衝突事件や尖閣国有化など、日中の首脳間で意思の疎通がうまくいかなかったことが事態を悪化させ、緊張を生み出しました。対中関係が緊張しているので日米安保の強化が必要だという議論がその後の主流になっていますが、その一方で中国とのコミュニケーションをどのように確保するのかという重要な課題に取り組む必要があると思います。

AERA 2023年6月19日号より
AERA 2023年6月19日号より

 主要国の中でも飛びぬけて深刻な財政難を抱える日本にとって、東アジアにおける軍拡競争は非常に不利な土俵に引きずり込まれることを意味します。

 ウクライナ戦争の開始から1年あまりが経ちました。「今日のウクライナは明日の東アジア」といった刺激的な言葉の中身をよく吟味して、もう少し幅広い観点から、日本にとっての国益を考えるタイミングではないかと思います。

(構成/編集部・渡辺豪)

AERA 2023年6月19日号