
もう一つは、左派の人々が「個々人は自分の望むことを自由に選択できるべきである」と信じてきた自律性が揺らいでいることです。例えば今、多くの若者は、リベラリズムとは親世代や祖父母の世代が信じている古臭い考え方であると考えています。上の世代が「表現の自由」として認めていることに対し、彼らは人種差別主義者や性差別主義者による差別的な発言(ヘイト)を黙らせるようにしたいと思っています。こうした二つの要素がリベラリズムを侵食し始めたと思います。
民主主義にとって、独裁主義の中国を相手にすることが、これから50年の最大の政治的チャレンジになるでしょう。グローバルパワーがこれだけの速さで大きくシフトすると、世界を不安定にするからです。習近平政権は中国史上初の3期目に入り独裁的な傾向をますます強めています。
習近平はこれまでずっとレーニン主義者だったと思います。権力を集中化させるレーニン主義の野心を着々と満たしていることは間違いありません。将来ある時点で、国際的にも国内的にも自分のやり方をソフトにしなければならないと判断する可能性はあります。ゼロコロナ政策では社会が不安定になるとわかった途端、すぐに舵を切った。アメリカとの緊張も、ある程度緩めたいと思っているでしょう。
■タモリの「新しい戦前」
日本で著名なタレントのタモリという人が、テレビで「新しい戦前」と発言して話題になったと聞きました。今、ウクライナでは戦争状態にあります。このことはアジアでの戦争がどのようなものになりうるか、非常にビビッドな印象を人々に与えたと思います。それまで人々は中国が台湾に軍事侵攻する可能性をまともに考えていなかったでしょう。しかし今は、戦争がどのようなものになるかリアルに想像することができます。そういう意味でタモリ氏の発言は意味があります。もちろん、台湾侵攻が実際に起きるかどうかは全く別の問題です。
中国の台湾侵攻で、日本は直接戦争に行くことはできませんが、少なくともアメリカ支援という形で台湾への支援ができると思います。アメリカは、特に沖縄に米軍基地を置いていることで日本に依存しています。アメリカの航空機や船舶がこの基地を使えなければ、アメリカは台湾を支援することはできません。そのレベルまで日本が積極的にアメリカ支援を行わなければならないのかどうか。きわめて重要な決断の一つになるでしょう。
(構成/国際ジャーナリスト・大野和基)
※AERA 2023年5月29日号より抜粋