一昔前の映画やドラマでは、飲食店で「髪の毛が入っていた」「虫が入っていた」と因縁を付けるチンピラが描かれることが少なくなかった。もちろん、その因縁はでっちあげの事実無根なのだが、そういったシーンがステレオタイプに描かれていたということは、少なからず「飲食店での異物混入」は発生していたということだろう。
だが、現代の異物混入は上記のような「特定の店の中での出来事」では済まない。すぐさまSNSを通じて拡散される。さらに、個人商店が減り、大手チェーン店が増えている今、ある一店舗での事件があっという間に全国に波及する。
人間が調理する以上、事故をゼロにすることは難しい。しかし、食品を提供する以上、限りなくゼロに近付ける努力は必要だ。そして、どれだけ安全管理に気を配っているかを適切に消費者に伝えることも求められる。それは企業を守るのではなく、消費者に安心を提供するという食品産業の義務だとも言える。
今はネット上でいくらでも詳細な情報を提供できる時代。企業には安全性を伝える機会は十分にある。そこで、国民食とも言われる牛丼チェーンのHPで「安全情報」をチェックしてみた。
■牛丼界の老舗・吉野家
日本で初めて牛丼をファストフードとしてチェーン展開した老舗だが、HPでの安全情報の公開は十分とはいえない。一貫して、アメリカ産牛肉の生産・流通・管理体制を説明するばかりなのだが、これは2004年にBSE問題が発生した際、一切牛丼を提供できなくなったことを強く意識していると思わせる内容になっている。だが、吉野家が使用している原材料の産地情報などがほとんど確認できない。
http://www.yoshinoya.com/about/safety/policy/beef/index.html
■吉野家を抜いて牛丼界1位となったすき屋
2008年に店舗数で、09年に売上高で吉野家を抜き、牛丼界のナンバーワン企業となったすき屋。食の安全の情報公開も吉野家よりも一歩、先を行っている。生産・流通・管理体制の説明については吉野家と変わらないが、使用している原材料の産地情報、アレルゲン情報などを公開。牛肉だけではなく米をはじめとする他の食材の産地情報も公開されている点が、吉野家との大きな差だ。
http://www.sukiya.jp/about/safety.html#content01
吉野家、すき屋ともに、食品衛生法などの公開基準は十分に満たしている。しかし、これだけ食の安全に関心が高まり、異物混入事件が世間をにぎわす昨今、「法に準じる」だけでは足りないと思わせるのは事実だ。そんな中で、特筆すべきチェーン店を見付けた。牛丼ではないが、長崎ちゃんぽんリンガーハットだ。
牛丼2社が実施しているような情報公開は、リンガーハットでは基本となっている。さらに全食材の国産化、安定供給体制の確立など、原材料調達の背景をこと細かに公開している。さらには、契約農家を顔出しで紹介するなど、「どこで、どのように生産された原材料か」がわかるようになっているのだ。家庭で買う食材でさえ、「特定の農家からしか買わない」という人までいる現在、チェーン店がこの程度の情報公開をするのは当たり前なのかもしれない。
情報公開をしたからといって、異物混入事件がなくなるわけではない。しかし、そういった企業姿勢をみせること、情報公開をすることでごまかしをできなくすることこそが、食品を供給する企業に求められている。