東京駅周辺のビル群、渋谷、新宿、さらに六本木の由緒ある庭園を含む再開発などが目白押し。いったい誰がこのビルを買うのか。マンションは億単位で、誰が住むのか。庶民にはとうてい手が届かない。時が経てば、空室だらけでゴーストタウンにならないか?
コロナ以来多くの店が廃業し、苦しい生活を余儀なくされている中で、不動産業だけは一人勝ちという不思議!
経済効率一辺倒の価値観を変えるチャンスは、3.11やコロナをはじめ何度もあったが、過ぎてしまえば元の木阿弥。日本はどうなっていくのか。
神宮外苑の緑に話をもどせば、ヨーロッパなど、陸続きで何度も戦争で焼けた都市の人々は、まず緑を考える。人工的に植樹し、公園を造る。私が住んだエジプトなど砂漠地帯では、疎林やわずかな泉も大切にする。雨が多くいつでも緑が出てくる日本では、当たり前になっているから、とりわけ緑に関心を持たない。平気で樹木を伐り、ビルに建てかえる。何と無神経なことか。アラブでは、木を一本伐るのは腕を一本斬る重罪に値するという。もう一度考えてみてほしい。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中
※週刊朝日 2023年6月2日号