人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、「東京の変容」について。
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異空間にもどった気がした。北陸新幹線が東京駅に近づくにつれ、高層ビルが林立している。かつて武田百合子はエッセイで、東京の灯が見え出すと懐かしさでいっぱいになると言った。東京はこの数年で大きく変質し、まだまだこれから各都心で再開発が繰り返される。
ゴールデンウイークから、新緑と、例年より早くレンゲツツジの朱に包まれた軽井沢の山花からもどったばかりなので、ショックは大きかった。
オリンピックをはさんでこの数年の東京の変容は異状だ。特に先日亡くなった坂本龍一さんが問題提起した神宮外苑の再開発には、様々な声が方々からあがり、抗議集会が開かれている。
「率直に言って、目の前の経済的利益のために先人が100年をかけて守り育ててきた貴重な神宮の樹々を犠牲にすべきではありません」
亡くなる一カ月前に小池都知事に宛てて書いた坂本さんの手紙だ。老朽化した神宮球場と秩父宮ラグビー場を建てかえ、ホテル併設の野球場のほか、高さ二百メートル近い二棟のビルなどを建設する総事業費3490億円の民間事業。
風致地区で建物には高さ制限があるはずが、超高層ビルの建設が可能になったのはどんなからくりがあるのか。事業は認可され、三月から工事が始まっている。高木だけで七百本以上伐採する。
現実には、明治神宮の持ち物らしいが、大切な都民の財産でもある。私も銀杏の葉を踏みしめながら、ラグビー早明戦を見に国立競技場へ。
大学時代にもどれば、高校時代のボーイフレンドの上京に合わせて外苑を散歩した。
坂本さんの問題提起は、経済効率のみ追い求めてきた戦後日本の都市計画への批判である。高層ビルを建てることで、多くのディベロッパーの懐が潤う。かわりに、安らぎを与える樹々が失われる。