ウクライナ戦争が長期化する中で、気候危機も深刻な問題だ。ジャーナリストの国谷裕子さんと経済思想家の斎藤幸平さん。環境問題に詳しい2人がについて語り合った。AERA 2023年3月20日号の記事を紹介する。
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国谷:ロシアのプーチン大統領はいったいなぜ、ウクライナに侵攻したのか。理解するのは1年たった今も本当に難しいのですが、斎藤先生は「これはロシアによる『気候戦争』である」と指摘されていますね。
斎藤:「気候危機は、すべてを変える」と言ったのは、カナダのジャーナリスト、ナオミ・クラインですが、気候変動は戦争にも影響します。
まず、EU(欧州連合)の脱炭素化は化石燃料輸出国であるロシアの影響力を低下させ、経済基盤を切り崩します。その前にプーチン大統領はウクライナ侵攻を実施する必要があったわけです。一方で、永久凍土が国土の65%以上を占めるので、温暖化は凍土が解けることによるインフラへのダメージなど深刻な問題もある。ロシアにとっては、気候変動対策は急務なのです。
気候危機の影響は干ばつや熱波による食糧危機のリスクを高めていきます。ウクライナの肥沃(ひよく)な土地は穀物の生産にとって魅力的だし、半導体などの製造に必要な資源も豊富。加えてIT技術も高い。ロシアのウクライナへの介入は、資源管理を通じて、ロシアの世界への影響力を保持することにつながる。これが侵攻の要因として気候危機という視点が必要な理由です。
国谷:ただ、脱炭素化の流れの中で化石燃料の価値が下がっていく脅威をロシアが感じていたとしても、それを輸出する自由貿易による恩恵は十分に受けていたわけです。その恩恵を放棄してまでなぜ「気候戦争」に踏み切るリスクを冒すのか……。どうも「間尺の合わない判断」に思えてなりません。
斎藤:そうですね。侵攻には、NATOの挑発や欧米から二級国扱いしかされないことへの怒りなどいろいろな理由があるでしょう。その意味で「気候戦争」はあくまでも一つの見方の提示です。
国谷:たしかにアフリカや中東などでも、渇水などが原因で紛争が多発しています。これからは気候危機によって穀物や天然資源などの獲得競争が激しくなっていく。それが世界の不安定化を招くことが強く予想されますね。
斎藤:大きな転換点ですよね。つまり、この戦争が決して最後ではなく、これから始まる気候変動という時代の「慢性的な緊急事態」の始まりになる。