『エヴリシング・イズ・ラヴ』ジェイ・Z&ビヨンセ(Album Review)
『エヴリシング・イズ・ラヴ』ジェイ・Z&ビヨンセ(Album Review)
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 2018年6月6日からスタートした【オン・ザ・ランII】ツアーを行っているジェイ・Z&ビヨンセ夫妻が、“ザ・カーターズ”というファミリー・ネームを起用したユニット名で、アルバム『エヴリシング・イズ・ラヴ(Everything Is Love)』をサプライズ・リリースした。

 6月16日に発売されると、2日間でアルバムについてのツイートが210万を記録。中でも、パリのルーブル美術館を貸し切って撮影されたミュージック・ビデオが話題の先行シングル「エイプシット」は、すさまじい記録を更新している。同曲は、夫妻に加えファレル・ウィリアムスがプロデューサーとして参加し、制作陣にはミーゴスのクエヴォとオフセットもクレジットされている。ポップな要素は皆無の真っ黒いヒップホップ・トラックに乗せた、ビヨンセのラップが超クール。一列になって揺れるフォーメーション・ダンスも完璧だ。一方、ジェイ・Zは今年2月開催の【第52回スーパーボウル】で、ハーフタイム・ショーのパフォーマンスを断ったことを暴露している。出演について曖昧にしていたのは、この曲のためだったのか(?)。

 エディ&アーニーの「You Make My Life a Sunny Day」がサンプリングされた、ラストの「ラヴハッピー」では、ビヨンセが「あなたは“あること”をしたけど、 私は変わってくれると信じてる」と意味深なフレーズを歌う。これは、2~3年前に報じられたジェイ・Zの浮気について、今の心境を語ったもの。当時ビヨンセは、6thアルバム『レモネード』(2016年)で反撃、ジェイ・Zは翌2017年にリリースしたアルバム『4:44』でそれを認め、謝罪したことが話題となった。一方、ライブでは手をつないでステージに登場したりと、円満っぷりをアピール。夫婦のイザコザもビジネスに変えてしまう、この2人のプロ意識には感服する。

 ファレルが制作に参加したもう1曲の「ナイス」は、2000年代初期に自身がプロデュースしたタイトルに近い、ファレル節全開のヒップホップ。参加する作品によって、こうもカラーを変えられる彼のプロデュース能力もすばらしい。

 ファット・ジョーやリル・ウェインなどの作品で知られるプロデューサー・チーム=クール&ドレーによるプロデュース曲「サマー」は、70年代ソウルとレゲエをミックスしたような、レトロな曲。タイトルが示す直球の“夏ソング”で、レゲエ/ダンスホールのサウンド・システム=ストーン・ラブ(Stone Love)がフューチャーされている。ビヨンセは、2016年のアルバム『レモネード』でも、「ホールド・アップ」や「ソーリー」など、レゲエを取り入れたナンバーを軽々歌いこなし、あらためてボーカリストとしての実力をみせつけた。

 売れっ子ラッパーのタイ・ダラー・サインがコーラスと制作に参加した「ボス」は、ホーンの音が鳴り響く、ファンクに通じるループ感覚がたまらない。プロデューサーにはブルックリンのDJ/プロデューサー=メロー・Xとマイク・ディーンも参加している。ヒットメイカーのボーイ・ワンダと、ドレイクのプロデュースでもおなじみとなったトロントのビートメーカー=Navが制作に参加した「フレンズ」は、ボーカルとラップを交互に絡ませた、そのドレイク直結のナンバー。流行もしっかり取り入れている。

 リアーナの「ラブ・オン・ザ・ブレイン」(2016年)などを手掛けるノルウェー出身の音楽プロデューサー=フレッド・ボールが参加した「713」は、ソウル・ユニットのハイエイタス・カイヨーテによる「Sphinx Gate」(2012年)と、コモンの人気曲「The Light」(2000年)の2曲が、「ハード・アバウト・アス」には、故ノトーリアス・B.I.G.のヒット曲「Juicy」(1994年/ラップ・チャート1位)がネタ使いされている。そして「ブラック・エフェクト」には、内田裕也率いる日本のロック・バンド=フラワー・トラベリン・バンドの名曲「Broken Strings」(1973年)がサンプリングされた。カニエの“早回し”的な使い方が絶妙で、ノスタルジックな雰囲気に包まれる。

 続行中のツアーは、今年10月まで行われる予定。今後、本作からも数曲がパフォーマンスされるだろう。 なお、『レモネード』に続くビヨンセのソロ・アルバムについては、何もアナウンスされていない。

Text:本家一成

◎リリース情報
『エヴリシング・イズ・ラヴ』
ザ・カーターズ(ジェイ・Z&ビヨンセ)
2018/06/16 RELEASE