親子で楽しみながら考える力、つくる力、伝える力を育む『小学生からはじめる わくわくプログラミング』が日経BP社から出版された。この本は小学生を対象に、プログラミング学習を通じ、仕組みを考え、ものをつくり上げる楽しさを体験する学習書になっている。
取り上げているのは、子ども向けのビジュアル・プログラミング環境であり、プログラミング言語でもある「Scratch(スクラッチ)」だ。これは、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボのミッチェル・レズニックさんのチームが開発したものである。いまや世界の人々が使っているといっても過言ではなく、多彩なプロジェクトを創造し、共有されているのだ。この「Scratch」を使えば、アニメーションやゲーム、音楽を作曲・演奏するためなどのソフトを自分で開発することができる。操作画面は分かりやすく、キーボードを使うのではなくマウスで操作するため、8歳(小学校3年生)くらいから楽しめる。
この本では、まず「Scratch」の基本的な操作とプログラムの考え方を学ぶため、国語(物語メーカー)、算数(フィズバズ)、理科(アリシミュレーター)、社会(なんでもクイズ)、音楽(かえるのうた)、体育(100メートルハードル)の6教科に関連した例を紹介する。太陽のように明るい男の子「ニャタロー」や頭が国語辞典になっているクールな若者「サーチマン」、身体が図形でできている「マスラー」などのキャラクターとともに、豊富なイラストレーションと平易な言葉で解説されている。
「コンピューターやプログラミングというと、難しい印象を持つと思います。今の子どもたちは、デジタル・ネーティブといわれるように、生まれたときからデジタル機器に親しみ、自然に使えるのです。しかし、それだけではいけません。プログラミングを通して、自ら作品をつくり出す表現力が必要です」という著者の阿部和広さんに話を聞いた。
■表現するための手段
なぜ難しいという印象を持つのか。それは、その中身がどのように動いているのか、どのようにつくればよいのかが分からないので、そう思ってしまうのだ。中身を動かしている仕組み(プログラム)をつくるためのプログラミング、それをこの本では簡単に説明している。中身が分かることにより、我々が生きている社会で使われるコンピューター、家電、そして、社会のシステムの仕組みなどの基本が分かるようになる。プログラミングは、その社会をより豊かにするものであり、また、子どもが持っている創造力などを表現する手段としても使えるのだ。
親は、これから我が子が成長し社会人になるとき、安定した職に就いて人生を送れることを考えるものだ。今までは製造業などが中心だったが、今後はそれが情報産業に変わる可能性もある。そのためにも、子どもの頃からプログラミングの素養を身に付けておくことは有利かもしれない。例えば「Scratch」でどのようにプログラムをつくるか。まず自分がつくりたい、楽しみたいと思うようなアニメーションやゲームなどをつくることから始める。完成したら当然、それで遊ぶ。ただ一人で遊ぶだけでは楽しむ限界があるので、友達にも見せて一緒に遊ぶ。すると、その友達が感想・意見をくれる。そして、みんなで改良し、よりよくなっていく。さらに発展し、別の視点で別のものをつくってみようということにもなる。このように回っていくことをクリエーティブ・ラーニング・スパイラルと呼び、自分がつくったものを公開するという考え方と、人がつくったものをリスペクトするという考え方が生まれてくるのだ。そのように考えられる子どもになることが重要だという。プログラミングは、何かを表現するための手段でもあるのだ。
■読み・書き・プログラミング
目の前に積み木があれば、積まない子どもはいないであろう。プログラミングにおいても、それと同様のことがいえる。実際に子どもが作品をつくったら、まずは褒めてあげる。次に、どのような考え方でどのようなものをつくりたかったのかを聞く。周りの人たちが適切な評価をしてあげれば、子どもはどんどん伸びていく。そのような見守り方をすると、結果として創造力、論理的思考力が付いてくるのだ。
平成24年度から中学校では、技術・家庭科の中でプログラミングによる計測・制御というものが必修単元になった。現政府の政調戦略素案では、さらに小学校でもプログラミングを義務化する動きが出てきている。アメリカなどは教育の重要なポイントとして、国絡みで導入するという。日本の小学校でも英語同様、プログラミング学習も義務化される日は、そう遠くないであろう。
「Scratch」には、ウェブサイトで登録するシステムがあり、ワールドワイドで登録者数は330万人強、そこにアップロードされている子どもたちの作品は、550万点を超えた。子どもたちの創造力、表現力、そして共創力が未来を拓(ひら)く。「読み・書き・プログラミング」の時代が、すぐそこにきている。
『sesame』2014年7月号(2014年6月7日発売)より
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=16032