エロ小説は簡単に書けるんじゃないかという錯覚がある。エロシーンさえ書いてあればそれはエロ小説であり、エロシーンさえ書いてあれば客は喜ぶからいいのだ、と思われてるような。「そうはいかない!」と作家としては言いたいところだろう。
女流官能小説家が官能小説の書き方を指南、という本は前にも読んだことがある。男の官能小説家による書き方読本もけっこうあるんだけど、女流小説家のほうが売り物にされてる感じはある。きっと「女で官能小説書くなんてよっぽど好き者に違いない、と思う浅はかな男が多い」ってことなんじゃないかと邪推する。それなら、女流官能小説家の書くものがものすごく「男が書くものと違う」かというと、私の読む限りはそんなに違わない。女だからこそ、男が書く以上に男を喜ばせる技を盛り込むことがこんなに可能なんですよ! というあたりを説いてくれれば「なるほど~」と感心して読むのだが。
さて、この本は「女流官能小説の書き方」となっていて、しかも「官能小説を書いてみたい女性のため」の本だ。「女性にも納得してもらうには、男性にはわからない女性心理が要る」し、その逆もしかりだと書いてる。
著者の藍川さんが、ご自分の著作の中からエロシーンを抜粋して、不倫、複数プレイ、同性愛など、官能小説のいろいろな種類を解説するという体になっていて、エロ場面アンソロジー本として読める。そして舞台、展開、濡れ場、官能表現などの項目で、書き方を指南している。藍川さんは、そこに至るまでのシチュエーションや、心の動きが重要である、と言っている。「いちばん大切なのは性愛を妄想すること」だと。私はエロシーンだけで充分イイけどなあ。
これは嗜好の問題かもしれない。私は女だけど、明らかにおっさん向けの、おっさんが書いたエロ小説のほうが好きだからなあ。とにかく自分が興奮できるやつを地道に探すしかない。それで無ければ自分で書く。それしかあるまい。
※週刊朝日 2014年3月14日号