――階段撮りの愛用カメラは?
最近は、去年買ったリコーCX5です。コンパクトカメラはリコーのシリーズをずっと使っていて、「東京の階段」(2007年出版)の写真を撮ったころはCaplio GX8、その前はCaplio G4wideでした。もともと建築学科なので資料的に建物の写真を撮ることが多いんですが、コンパクトデジカメが出始めたころは、28ミリ(35ミリ判換算)のレンズがなかったんですよ。東京で建物を撮っていると道幅がそんなになくて引きもないから、全景を収めるためには28ミリじゃないと厳しい。現場でフレーミングしてみると、小さい端っこが写らなくて実感と違うんです。もちろん一眼レフを使えばいいんだけど、あちこちフラフラして路地裏で忍者みたいにサササッと撮るには、やっぱりコンパクトのほうがよくて(笑)。なおかつ画質がきれいで、全部にピントが合っているのがいい。
それでカメラ屋さんに聞いたら、「リコーですよ」って教えてくれた。当時はコンパクトで28ミリがついているのが、Caplio G4wideくらいしかなかったんです。で、操作のクセや勝手がわかっているつもりで、ずっとリコーになっちゃったんです。不思議なことに、私の周りで街歩きしている連中の間では、なぜかリコーが多いんですよ。(笑)
――被写体を階段に絞った理由は?
大学4年生で卒論に都市計画を選んで、寺町の研究をしたんです。都内に寺町ってどのくらいあるんだろうって歩き回っていたら、お寺はけっこう高台の上にある。そういうところに行くと階段があるわけですよ。お寺の参道もそうだし、神社もそうだし、そのわきの街を抜けるところにも階段がある。そして大学院の後で論文を考える段になって東京の斜面に広がる街を調査しようと決め、要素のひとつとして階段も調べ始めたんです。で、現地に行ってみると、いろいろなタイプがあって面白いなと。もともと写真が好きだから、コレクター状態になっていったというところがありますね。36枚撮りのフィルムのうち30枚ぐらいが階段、みたいな撮り方をしていた時期もあります(笑)。階段って、ステップがあって手すりがあってと構造的な要素がけっこうあるんです。日なたでは陰影も出やすい。私は歴史や由来よりは、建築とか街並みとか形からアプローチするので、階段はそれぞれに表情があって面白いんです。
デジカメになってからは枚数を気にせず、バンバン撮るようになりましたね。フィルムのときは「前に撮ったからいいや」みたいなところがあったんですが、デジタルだと「光の加減から何から違うなあ」と気づいたりして、行くたびに撮るようになりました。
――どうやって階段を探すのですか?
これはね、住宅地図でしらみつぶしに探してます。ゼンリンのB4判の住宅地図で、拡大率を上げると出てるんです。1~2段の階段でも描いてあってすごいんですよ(笑)。なかには「ここ、通れるのかな~」というようなものもあるんですけど、「地図では通れることになっとる!」と決め打ちでやってます。山手線の内側だけで650ぐらいあって、だいたい全部行きました。いま23区のほうに拡大中なんですけど、もう1200は超えてしまったので、たぶん1500ぐらいは軽くいくんじゃないかな?
ただ地図で調べて行っても、予想外のことはありますね。たとえば階段から遠くの景色が見えるとか、そういうのは地図ではわからないですから。この前も田園調布に行ったら川崎のほうが見渡せたり、富士山が見えたりしてね。あと、階段が予想外に変な形だったり、手すりがヘンテコリンで左右で全然違っていたりとか。地図では「階段」としか書いてないですから行ってみると、「あれ?」というのはよくあります。あきないですよ。
※このインタビューは「アサヒカメラ 2012年12月号」に掲載されたものです