仏像マニア、仏像ファン、仏像愛好家といろいろ増えてきた。仏像といっても数が多く、それぞれにファンがついているので、「私はロック・ファンです」と漠然と言ったら、ビートルズ・ファンとストーンズ・ファンにそれぞれ「どっちが好きなんだ? ええ?」と詰め寄られるような状況が、仏像ファンの間にも増えている……かどうか知らないが、私なら人が仏像好きだと言ったら「ほおー、では何をお好みで? はあ、●●寺の●●菩薩? ほお、それはそれはよいご趣味で(といいつつ、まだまだ素人だなフフフと思う)」という方向に話が行くに違いないので、昨今出ている、ゆるい仏像本はつまんなくてしょうがない。
 この本もタイトルで、よくある初心者向け仏像鑑賞本に過ぎぬかと判定を下しそうになったのだが、読んでいったらけっこう面白い。秘仏について書いた章がある。秘仏とは非公開の仏像のことで、秘仏を中心とした見方をした仏像本は案外少ないので新鮮である。そして秘仏の「開扉の間隔が長いものになるほど、質的には劣る」という意見がさりげなくズバリと書かれているのも、これはよく仏像見てる人だとわかるのである。60年1回開扉の仏像よりも年1回開扉の仏像のほうがモノは落ちると思いがちだ。でも、それは逆で、イマイチだからこそ、「営業戦略」として開扉の間隔を延ばして付加価値を高めている、と。寺は怒るかもしれないが、笑って納得してしまった。
 そして鎌倉仏についての記述。オークションで海外に流出しそうになったことなど、ちゃんと運慶仏についての現代の下世話エピソードとかも書かれている。さらに運慶一族についての、けっこう身も蓋もない評価が面白い。出てくる仏像がけっこうマニアックで、私と仏像勝負できるぐらいの筆者だとわかる。が、そのマニアックさは一読しただけでは伝わらず、つまりギラギラしてなくて、島田裕巳さんの人柄の良さが出ちゃっているのだった。

週刊朝日 2014年2月28日号