“都市型ポップス総選挙”の1位は? 牧村憲一×藤井丈司×柴那典『渋谷音楽図鑑』トークイベントが開催
“都市型ポップス総選挙”の1位は? 牧村憲一×藤井丈司×柴那典『渋谷音楽図鑑』トークイベントが開催
この記事の写真をすべて見る

 2017年7月25日、東京・下北沢の風知空知にて【藤井丈司 presents トークライブ「相合傘」VOL.8】が行われた。この日のテーマは7月4日に発売された『渋谷音楽図鑑』。トークゲストに、藤井とともに同著書を執筆した牧村憲一が登壇した。

 ゆったりとした風知空知の雰囲気を満喫しながらスタートしたこのイベント。『渋谷音楽図鑑』は、渋谷という街の戦後の発展を踏まえ、その歴史を辿っていくと同時に、日本の「都市型ポップス」の系譜を改めて整理する内容。大滝詠一、細野晴臣、シュガー・ベイブ、山下達郎、竹内まりや、フリッパーズ・ギターと、数々のアーティストと関わり音楽プロデューサーとして長年の経験を持つ牧村の語りを中心とした章の他、藤井、そしてもう一人の著者である柴那典との対談形式による、都市型ポップスの名曲の楽曲分析を中心とした章なども収録され、「都市型ポップス」を多角的に解析した内容となっている。

 この日は『牧村憲一が選んだ都市型ポップスの10曲』の“総選挙”ということで、牧村・藤井らが『渋谷音楽図鑑』で分析した6曲に、さらに4曲を加えた合計10曲の中から、登壇者や観客が「都市型ポップス」の名曲だと思うものに投票、結果を集計して順位を決めようというゲーム性のある内容。この日、投票の対象となったのは以下の10曲(●は『渋谷音楽図鑑』で楽曲解析の非対象曲)。

はっぴいえんど「夏なんです」(1971年)
荒井由実「ひこうき雲」(1973年)●
シュガー・ベイブ「DOWN TOWN」(1975年)
小坂忠「しらけちまうぜ」(1975年)●
ムーンライダース「スカンピン」(1976年)●
山下達郎「RIDE ON TIME」(1980年)
大滝詠一「君は天然色」(1981年)●
フリッパーズ・ギター「恋とマシンガン」(1990年)
小沢健二「ぼくらが旅に出る理由」(1994年)
コーネリアス「Point Of View Point」(2001年)

 イベントでは、はっぴいえんど「夏なんです」から順に10曲を実際に聴きながら、牧村・藤井による解説も加えられた。藤井が、はっぴいえんどの当時の評価について聞くと、牧村は【中津川(全日本)フォークジャンボリー】に六文銭のマネージャーとして同行した時に彼らと知り合ったと明かしつつ、「当時は暗くて内向きな音楽だと思われていた」と語った。また「夏なんです」について牧村は「(中津川のことも含めて)後からどんどん伝説が塗り替えられているけど、この曲を聴くと当時を思い出す」と当事者の視点からコメントした。

 荒井由実の「ひこうき雲」について牧村は、細野晴臣のベースの動き、コードの積み上げ方などに注目しつつ、「僕たちは3コードのフォークからスタートしたから、分数コードなどを使った音楽性にびっくりした」と語った。また、ジャズ・ミュージシャンで当時バークリー音楽大学で学んだ渡辺貞夫が1965年に帰国し、その学びを様々な人に伝授したことが、当時の音楽シーンに影響を与えたのではないかと指摘した。一方、藤井はこの曲のコード進行と歌詞の関連性(「ゆらゆら陽炎が~」という歌詞の箇所で、調性が曖昧なコードが使われている等)に注目。当時10代であった荒井由実の作曲家としての早熟ぶりを絶賛した。

 シュガー・ベイブ「DOWN TOWN」について牧村は、オリジナル版の“8ビート感”について、後の山下のソロライブでのエピソードなどを交えつつ指摘。藤井は、山下達郎の明るいヴォーカルを引き出している大滝詠一のプロデュース・ワークを改めて評価した。小坂忠「しらけちまうぜ」、ムーンライダース「スカンピン」で牧村は、細野・松本隆が当時スリー・ディグリーズに楽曲を提供したことなどについても触れつつ、75~76年頃の日本のシーンにおけるフィラデルフィア・ソウルの影響力を語った。

 休憩を挟んで行われた後半は、山下達郎「RIDE ON TIME」と大滝詠一「君は天然色」からスタート。牧村は「70年代の真ん中あたりは、こういう音楽(都市型ポップス)は売れないんじゃないか、という危機意識があった」と、都市型ポップスの音楽家達がなかなかブレイク出来なかった当時の状況を振り返り、そのターニング・ポイントは1978年だったと述べた。同年にはYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)がファースト・アルバムをリリース、サザンオールスターズが「勝手にシンドバッド」でデビュー、竹内まりやのデビューも重なった。「RIDE ON TIME」「君は天然色」についても「やっと10年近い歳月が実を結んだ」と当時の感慨を語った。

 その後、時代は90年代ヘ。80年代に都市型ポップスの音楽家たちがブレイクし、彼らの作り出した音楽が拡散していく中でそのノウハウも共有され、盛り上がりと作家の摩耗が同時に起こっていたと当時を振り返る。そんな中、アンダーグラウンドでは新たなカウンター・カルチャーの土壌が醸成。牧村は、この日に着ていた英レーベルの「ラフ・トレード」のTシャツを指差し、「(同レーベルを)好きで聴いてはいたけど、後にこれほどまで影響力を持つとは思ってなかった」と語り、「ラフ・トレード」に魅了されていた若者達から「待っていた!」と歓迎されたグループこそが、ロリポップ・ソニック(後のフリッパーズ・ギター)だったとコメントした。

 フリッパーズ・ギター「恋とマシンガン」、小沢健二「ぼくらが旅に出る理由」、コーネリアス「Point Of View Point」を聴いた後、牧村は70年代までを振り返り、「当時は“フォーク=優しさの時代”と評価されていたが、実際には当人たちはロックのつもりでやってたと思う」と語り、「(ポップスの)輸入文化について、表面上のジャンルだけを見て語ってしまっては、大事なことを取り違えてしまうのではないか」と持論を述べた。

 10曲を聴いた後、もう一人の著作者である柴那典も登壇し、それぞれの「都市型ポップス」のTOP3や順位の予想などを交えつつ、いよいよ集計結果の発表に移った。7位から発表された順位は以下の通り。

7位 山下達郎「RIDE ON TIME」
6位 小沢健二「ぼくらが旅に出る理由」
同率4位 はっぴいえんど「夏なんです」
同率4位 荒井由実「ひこうき雲」
3位 フリッパーズ・ギター「恋とマシンガン」
2位 大滝詠一「君は天然色」
1位 シュガー・ベイブ「DOWN TOWN」

 あくまでイベント参加者の中での順位だとは言え、牧村も「言われてみれば納得する」と評価。その後も柴が「ここに挙がった曲は意外とカバーの定番にはなってない」と指摘すると、牧村が「アーティストの匂いが染み込んでるから。カバーしづらいのではないか」と返す等、まだまだ盛り上がりが冷めやらぬ中、イベントは幕を閉じた。都市で生まれた名曲の名曲たる所以や、その裏側に隠された思いについて、改めて思いを馳せたくなるイベントだった。


◎イベント情報
【藤井丈司 presents トークライブ「相合傘」VOL.8】
テーマ:『渋谷音楽図鑑』発売記念スペシャル!
出演: 藤井丈司(音楽プロデューサー)  ゲスト: 牧村憲一(音楽プロデューサー) 、柴那典(音楽ジャーナリスト)

書籍情報
『渋谷音楽図鑑』
2017年7月4日発売
著者:牧村憲一 藤井丈司 柴那典
2,400円(tax out.)
URL:http://www.ohtabooks.com/publish/2017/07/04123250.html