この本にはいったいどういう意味があるのか、と思わず考える。意味は明確で、書名そのものの、焼き肉ハンドブックというべき本で、肉の格付けや銘柄牛についてわかりやすい説明がついている。産地別牛肉の特徴、なんてのもある。この特徴ってのが面白くて、東北の牛が「脂が濃厚で食べごたえのある牛肉が多い」のはいいとして、関東甲信越の「神奈川、千葉などの生産者の健闘が目立つ」という、これは牛肉の特徴といえるのか。いや、でも面白いからいいや。
さまざまな牛肉の部位、その呼び名、および写真が図鑑のように載っている。牛だけでなく豚も鶏も羊も載る。聞いたこともない部位があり、勉強になる。「とうがらし」なんて牛肉の部位はこの本を読まねばずっと知らぬままであっただろう。
しかし読めば読むほど、この本を読んで何か役に立つのだろうか、と思うのである。この本を手に取る人は、「こんど焼き肉行く時のために、肉の知識をわかりやすく仕入れよう!」と思うのだろうけれど(私もまあ、そうだ)、そういう人が行く焼き肉屋って、肉の種類なんて「ロースとカルビとハラミとレバーとタン」ぐらいしかないんではなかろうか(私の行く店はそうだ)。で、タレの味つけが激しくて肉の味も焼き野菜の味もみんな同じになる、みたいな。焼き鳥では「皮」と「ペタ」と二つの皮が紹介されてるけど、私がよく行くチェーン焼き鳥店にはペタなんてない。
でも、そういうこととは別に、眺めてるだけでなんか楽しい……というか飽きないというか、気がつくと一時間経ってたりして、時間をつぶすには絶好の新書です。こういう食べ物関係の本でつい眺めてしまうタイプの本は、読んでいるうちに口さびしくなってきて、そこらにある袋菓子を食べたりする。そのせいか「読んでるだけで太る」状況に陥るのだが、この本は、載ってるのが生肉のそっけない写真なので、口さびしくならないのはいいことだ。
※週刊朝日 2013年12月13日号