《Starry Night / 青春ビルドアップ》アップアップガールズ(仮)
《Starry Night / 青春ビルドアップ》アップアップガールズ(仮)
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 10月14日は、森咲樹ファン、いや、全アプガ・ファンにとって忘れられない1日になったはずだ。半蔵門・TFMホールで行なわれた「アップアップガールズ(仮)3年分の感謝を込めて… ~森咲樹誕生日スペシャル(仮)vol.1~vol.3」、これもとんでもなくすごかった。森ティは10月12日に20歳を迎えた。アプガは今年で発足3年目を迎えるというのに、なぜか彼女の誕生イベントが催されたことは一度もなかった。それなら3年分まとめて祝おうじゃないか、ということが今回の3回公演につながった。

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 森ティみずからレパートリー、衣装、コーナーのテーマ(TFM公演には、必ず“余興”がある)を選んだそうだが、かといって森ティが思いっきり目立つというわけではなく、結果的にメンバーそれぞれの持ち味もしっかり感じられたのも公演のいいところ。ぼくは良いグループには「ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン」という哲学があると信じているが、もちろんアプガもその例外ではないのだ。森ティは主賓だというのに罰ゲームを受け、「かいこのさなぎ」や、苦手だという「きのこ」を食べるなど、普段できないことに思いっきり取り組んでいた。当然、ファンも他のメンバーも爆笑の渦。なのにいざ歌となるとキリッとした表情で、難易度の高い技を次々と決めてしまう、その切り替えの鋭さもまた森ティを含むアプガの凄さである。ぼくは3部を見ることができなかったけれど、きくところによると、パイ投げを顔面で受けたり、ストッキングをかぶって会場を徘徊したほか、超大作「PandaBoY DJ MIX」と「サマービーム!アプガの夏MIX」を歌い踊ったという。この2曲を1ステージでやるということは、ある程度の年齢の洋楽ファンに向けて言えば、ディープ・パープル『ライヴ・イン・ジャパン』の《スペース・トラッキン》、レッド・ツェッペリン『永遠の詩』の《幻惑されて》を立て続けにプレイするようなものである。つまりアプガは、アナログ時代であれば「片面1曲」に相当する長尺ナンバーを2つも持っているわけだ。それを全速力で歌い踊る。それがアプガ!

 つぎにぼくが見たのは22日、渋谷duo MUSIC EXCHANGEで行なわれた「IDOL PHYLOSOPHY VOL.3」。これもよかった。対バン形式で、パフォーマンス時間が比較的短い場合、アプガは自己紹介をせずトークも最小限にとどめ、ひたすら曲をやりつづける。限られた時間のなかに、どれだけ多くのレパートリーをつめこむか、入魂の歌とダンスでどれだけ他のアイドルのファンの心を奪ってゆくか。アプガの絶対的快調には磨きがかかるばかりだ。

 26日はSHIBUYA-AXで行なわれた「@JAM the Field vol.4」に登場。これまたすごかった。11組のアイドルが出演する7時間かかるイベントだったが、アプガは他のアイドルを推しているファンすべてに改心を迫るかのような渾身のパフォーマンスで客席とステージの双方を汗まみれにした。この日のテーマは“これまでの@JAMで初披露した曲特集”。@JAMに欠かせない存在であり、@JAMを常に盛り上げてきたお祭りグループだからこそできる快挙といっていいだろう。
 そしてこの日は、10月30日にリリースされるニュー・シングル《Starry Night/青春ビルドアップ》から《Starry Night》がライヴ初披露された。こういうしっとり系のナンバーがシングルのメイン曲として世に出るのはこれが初めてじゃないか。感想はずばり、「俺の頭の中に星空が広がった」というひとことに尽きる。

 27日は赤坂BLITZで「アイドル・ハロウィン」だ。ハロウィンといえば、これまたアプガにぴったりの催しではないか。ハロウィンといえば、なんといっても仮装だ。仮装。会場に向かう途中でぼくは気づいた、仮装の「仮」とアップアップガールズ(仮)の(仮)はまったく同じ字だ。これはすごい偶然、がぜん心臓の脈が速くなる。この日、赤ブリにはいろんなアイドルが出てハロウィンを盛り上げた。が、「仮」という文字は、他のどの出演者の芸名にもなかった。仮装の日に、(仮)を見ることができる幸運。気分が実にスカッとした。
 大トリを飾ったアプガはまず、各人のイメージカラーのついた全身タイツで登場した。顔にはそれぞれ、思いっきりハロウィン用のメイクをしている。前衛舞踏団か、と思わせるほどだ。しかしパフォーマンスは例によって真摯そのもの。2曲目から別の衣装に着替える。モーニング娘。、℃-ute、Berryz工房、スマイレージなど同じ事務所に所属するアイドルたちのコスチュームだ。メンバーはいう。
「先輩の衣装を借りてきました。無断で」
 いや、あるいは「黙って借りてきました」だったかもしれない。真偽を問うのも野暮だが、「黙って」「無断で」とサラッと言ってのけるところがいかにもアプガらしくてぼくはメンバーがさらに最高に思えてきた。「黙って借りてくる」という発想は「お前のものはオレのもの。オレのものはオレのもの」、「別に取ったわけじゃないぜ。永久に借りておくだけだ」というジャイアンイズムに通じるではないか。「ハロプロの落ちこぼれ」と自らを称するアプガ。「狂気の女侍」とウェブサイトで形容されたアプガ。さすが独立愚連隊。やることなすことキマっていると、ぼくはヒザを打つしかない。
 そして佐保明梨がスマイレージ《夢見る15歳》の衣装を着ていたのも、個人的には泣かせどころだった。彼女にはスマイレージのメンバーに「なれなかった」歴史がある。もっとも佐保がスマに入っていたら瓦割りや蹴りを披露する機会はなかっただろうし都はるみみたいにコブシを回しながら歌うこともなかっただろうし顔面パイ投げの才能も開花しなかっただろう。だからこれでいいのだ。
 関根梓全快おめでとう記念というわけか、久々に《ナチュラルボーン・アイドル》も披露されたし、前日に続いて《Starry Night》を聴くこともできた。聴けば聴くほどしみる。ヴォーカル・パートの半分ぐらい、ファルセットだと思う。こんなにファルセットが出てくるアイドル・ポップスは、ぼくにとって他に、ももいろクローバーの《ラフスタイル》が思いつくのみだ。男性ヴォーカルのファルセットはカーティス・メイフィールドとかフィリップ・ベイリーとか、とにかく艶っぽい。しかし女性ヴォーカルのファルセットは、これはこれで味わい深く、実にいい具合に耳に心地よく響いてくる。忙しいスケジュールの間をぬって、相当みっちり練習したことは間違いない。
 イロモノまっしぐらの衣装やメイク、トークやギャグで笑いをとりながら(ひよこの着ぐるみ…モー娘。《ピョコピョコ ウルトラ》の衣装…を着た古川小夏の“タオルアピール芸”は圧巻だった)、しっとり聴かせるところは聴かせる。つまりエンターテイナーとして、ド真ん中を行っている。そういうところもアプガが、中毒的ファンを多く生み出し続けている要因のひとつなのかもしれない。

 10月30日から11月3日にかけては、前述した《Starry Night/青春ビルドアップ》のリリースイベントも開催される。詳しくはオフィシャル・ホームページに載っているが、イベント自体は無料だし、アプガのリリイベは曲も多めで内容もたっぷりなので、ぜひ駆けつけられることをお勧めする。
 外がいくら寒くなろうと、日没が早くなろうと関係ない。アプガはいつもギラギラと燃え盛っている。その熱と輝きが、ファンを無性に、猛烈に引き込むのだ。さあ心にアップアップガールズ(仮)の名を刻み、そして曲を歌声を全細胞に注入せよ。明日はどっちだ!!![次回11/25(月)更新予定]

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