



――最初に使ったカメラは?
高校1年のとき、入学祝いに親が買ってくれた一眼レフです。機種は覚えてませんが、リコーの35ミリ。初めて撮ったのは、春の雲でした。2台目は1974年に小学館ビッグコミック賞の受賞インタビューのとき、カメラマンにおすすめの機種を聞いたら、アサヒペンタックスSPがいいと。さっそく賞金で買いました。ぼくは実際にモチーフを見て描いているので取材用のカメラが必需品。仕事道具ですね。3台目は、ミノルタα-7000。初めてニューヨークに行くことになり、急遽、望遠レンズとともに買いました。練習する暇がなく、飛行機の中で説明書を読んだのを覚えています。エンパイアステートビルからの夜景が美しくてね。でも三脚を持っていなかったから、その夜景は全部ブレてしまったんです。(笑)
いまはEOS KissデジタルXが中心。デジタルはなんとなく躊躇していたんですが、3年ほど前から使っています。実際使ってみると、ものすごく便利。速いペースで何枚も撮れるし、失敗したらどんどん消していける。これを買う前は取材のたびに大量のフィルムを用意して撮影中に何度も入れ替えていましたから、非常に楽になった。
――プライベートの旅では?
ぼくの場合、旅行イコール取材なんです。絵に使いたいモチーフはすべて押さえておきたい。イメージだけでは絶対に描けないんです。たとえば雲はまったく同じ形のものはないし、春と夏では明らかに違う。想像で描いてしまうと存在感のない雲になってしまう。
人物の場合は事務所のスタッフをモデルにして、ポラロイドで撮っています。服のシワやラインを確認するためですね。ジャケットのシワの出方も、夏場のコットンと冬のウールでは全然違う。デジカメで撮ってプリントアウトするより、早く見られるので便利なんです。面倒じゃないかと聞かれることもありますが、写真に撮ってから描くのはぼくのこだわり。なぜだろうと考えていくと、子どものころの体験に行き着きますね。絵を習っていた家庭教師が1個のりんごを何度も描かせるんです。よく見て描くんだよと言って、ほかのものを描かせてくれない。不満に思いつつも、そのうちりんごの表面に反射したわずかな光や影に気づいた。それを描いたとき、初めてOKをもらいました。徹底的に観察する目を、そのとき教わったんですね。
――撮影時に心がけていることは?
絵にしたい対象を見つけたら、とにかく無差別に撮ります。それも単純に平坦に撮るんじゃなくて、遠近感のあるカメラアングルを意識しています。建物や木が落とす影の形も時間帯によって変わりますから。見た瞬間、引き込まれる絵ってあるでしょう。写真も同じだと思うので、作品にそのまま反映できるように撮るのが理想。人間って、目で見ただけではなかなか記憶に残らないけど、カメラはそこにあるものをそのまま記録してくれる。その場で気づかなかったものに、後で気づかされることも多いんです。
先日、「菜(さい)~ふたたび~」という作品のために芸妓さんの家を取材させてもらいました。部屋の隅々まで歩き回って、2日で500枚は撮ったかな(笑)。間取りを記録しておくという目的だったんですが、写り込んだ何げないものから思いがけないヒントをもらいました。冷蔵庫に張ってある紙、火鉢、三面鏡、神社のお守り……現場ではささいなものに感じたんだけど、写真で改めて見返してみると主人公の行動がふっと浮かんできて物語のイメージが次々とわいてくる。「物がモノを言う時」があるんですね。だからぼくは、好きな音楽を聴きながら取材で撮ってきた写真をながめる作業がとても楽しいんですよ。
※このインタビューは「アサヒカメラ 2008年6月号」に掲載されたものです