■ジャズとブルース・ロックを股にかけた先駆者
ディック・ヘクストール・スミスは50年間にわたり、ブリティッシュ・ブルースのサキソフォンをひたすら演奏しつづけた。そして彼は、レジェンドになる。2本のサックスを操る独特の演奏スタイルは、彼のトレードマークだった。
ヘクストールは、アレクシス・コーナーのブルース・インコーポレイティッド、グレアム・ボンド・オーガニゼイション、ジョン・メイオールのブルース・ブレイカーズ、コロシアムといった、イギリスを代表する独創的なリズム・アンド・ブルース・バンドにおいて、常に核となり、画期的な音楽を発信しつづけた。
彼はまた、フリートウッド・マック、ヤードバーズ、アニマルズ、ローリング・ストーンズをはじめとするR&Bに感化されたロック・グループが台頭するべく、道を示す役割を果たした。
本書は、二部で構成される。第一部は、自伝の形式をとり、ヘクストールが含蓄のあるユーモアをまじえて、革命的なブリティッシュ・リズム&ブルースの創成期を語る。さらにはグレアム・ボンドの素顔や、ジンジャー・ベイカー、アレクシス・コーナー、エリック・クラプトン、チャーリー・ワッツにまつわる秘話を明かす。
ヘクストールは、自らの音楽人生をあくまでも赤裸々に綴る。その率直な記述は、プロフェッショナルのミュージシャンに求められる姿勢を映し出し、音楽業界における人種差別や蔓延する麻薬中毒をも問題提起する。
第二部では、ヘクストールのマネージャー、ピート・グラントが、この20年の音楽活動をふり返る。なお本書には、ディック・ヘクストール・スミスの70分に及ぶ貴重な演奏(大半は未発表)を収録したCDが添えられている。以下は、このサックスの鬼才に寄せられた賛辞の一部である。
「俺はコロシアムが気に入っていた。特にディックが。テナーとソプラノの奏者だ。ヤツは、ロンドンでセッションをするのか? 間違いなく、図抜けた男だ」(フランク・ザッパ)
「ぜひともこの自伝を買って、読み、そのすばらしさに驚いてほしいものだ。あの使い古したサキソフォンを首に掛け、君が長く活躍することを祈る」(ジョン・メイオール)
「私たちの音楽活動は、狂った世の中の"きわめてまともな陸の孤島"で、これまでがんじがらめになってきた。だが、DHSは、独自の表現力と逸話をもつユニークな友人だ」(ジョン・ハインツマン)
「他の分野の非常に重要なアーティストと肩を並べる、大きな意味をもつアーティストだ。彼の特長は、頑強で、意欲的で、アイデアが豊富にある上、並外れた力量と創造性、さらにイギリスのジャズ・シーンでは比較的珍しい勇気をもち合わせていることだ」(ピート・ブラウン)
「彼は、ジョン・メイオール、グレアム・ボンド、アレクシス・コーナーとともに、アメリカのジャズとブルースを独創的な解釈に基づいて演奏した、正真正銘のパイオニアだ。彼の影響力は絶大だった。僕は2年前に誘われて、彼の最新作のレコーディングに参加したが、彼は依然として、独特の熱情的なスタイルで、ソウルフルなジャズとブルースを演奏していた」(ミック・テイラー)
「彼は、とてもクールにみえた。肩から弾薬帯を巻きつけたメキシコの山賊のように、首からホーンを吊るしていた。ステージに立つと、さすがの名演を聴かせた。サックスの第一人者ならではの演奏だ。まるで、マディ・ウォーターズが、町一番のインド・レストランで、ワーデル・グレイと出会うような。ディック・ヘクストール・スミスは、唯一無二、この国が生んだ最強のテナー・サキソフォニストだ」(ハリー・シャピロ)[次回10月15日(月)更新予定]