仕事が片付かないおかげで夏を満喫できていない状態が続いている。腰はパンパン。首のリンパは痛いし、目もかすむ。人に言わせれば、そのグッタリとした見てくれは完全に「熱中症のせむし男」のようらしい。それでも、夢のまた夢、夏休み。ぼくのレディオは壊れかけ。こんなヒドイ感度状況で良質なる音楽の周波数なんてキャッチできるのだろうか…あぁ哀れ、連載もここで終わりか…
そう思いわずらっていたのも束の間、ぼくは先頃この一枚と出会って、夏のムードをバーチャル的にでもほんのりと味わってしまったのだ。捨てる神あれば拾う神ありとはこのことか。いや、ホント大げさではなく。この夏いちばんの思い出が、夏を感じさせてくれた音楽との出会いだなんて、あまりにも不憫に思われるかもしれないが、気遣いご無用。なにせ、近年まれに見るダンサンブルな夏を、独り占めのごとくエンジョイできたのだから。
「日本の夏」「ダンス」といえば、盆踊り。これしかない。厳密に分類すると、戦後にレコードで発展した「民謡踊り」になるだろうか。昨今、特に都内近郊では、「高円寺阿波踊り」、「原宿・表参道のスーパーよさこい」といったトランシーでハードコアなスタイルが夏祭りの主流になりつつあるが、やはり、町内会というダンスフロアにて、BPM60~70あたりのおおらかなグルーヴの大海を老若男女優雅に泳ぐ、「ソーラン節」や「炭坑節」が定番ドコロの、あの世界が今も昔もぼくはお気に入り。「ドラえもん音頭」、「アラレちゃん音頭」など人気アニメとのタイアップ音頭もまた胸キュンだ。ちなみに大瀧詠一の「ナイアガラ音頭」もドンピシャなのだけれど、多分にR45シティ派以外の人種にはさっぱり刺さらないと思われるので、ここでは深く掘り下げないことにしよう。
と、そんな数ある盆踊りの中でも、ぼく個人、特に30を過ぎてから惹き込まれているスタイルがある。それが、大阪・八尾市を代表する盆踊り、河内音頭。現在のルーツに関しては諸説諸々あるのだそうだが、この河内音頭、楽譜がないというひとつの大きな特徴がある。つまり、歌いたい内容・物語を自由にアレンジしながら楽曲に乗っけていくという、フリースタイル・ラッパーも真っ青のビビッドな “語り芸”なのだ。
ここ数年、河内音頭リバイバルのような動きも活発化しつつあるようで、今年上半期を振り返っても、お膝元・八尾市が生んだスーパースター、河内家菊水丸のニュー・アルバム『河内音頭秘蔵コレクション(6)』や、御年83を数える現役最古参の音頭取り、鉄砲博三郎の『音頭師』など、血沸き肉踊る超重要作品が次々にリリースされている。
ついでに言えば、若者を中心とした河内音頭リバイバルの最初の決定的なブームの発端となったのは、1982年に発売された、河内音頭三音会オールスターズによる渋谷ライブ・インでの実況録音盤『東京殴り込みライヴ』というLP。中でも「赤城の子守唄」は絶品で、伝説的な音頭取り、三音家浅王丸(みつねや・あさおうまる)の心意気丸出しの絶妙な語り・歌い口もさることながら、ジェームズ・ブラウン、フェラ・クティにも迫るその反復性の強いドープなリズムは、当時多くの若者の酔狂を生んだという。2011年に、リミックス、ダブなどのヴァージョン・アップ音源を追加して「完全盤」としてCD復刻されているので、気になる方は是非チェックのほどを。
ここまで書いておいて、今回紹介するのが、純粋な河内音頭作品ではないのだから、話がややこしいというか、明らかにぼくは疲れている…とはいっても、河内音頭は1曲のみではあるがしっかり収録されているのでどうかお許しを。
さて、ここに紹介する、ペケキング・テリーという男。9月にアルバム『袋綴じ ペ・オンゲン1 ゴシップ幕の内』で晴れて全国デビューを果たす、大阪が誇る放送禁止コミック・ソングの新星なのだ。この手のものが大好物の人ならば、「放送禁止」、「コミック・ソング」、さらには「河内音頭」という3ワードにすでに色めきたっているかもしれないが、まさにそんなアナタのちょっぴりブラックなココロの欲求を隈なく叶えるうれしい仕上がり。及び腰のマスメディアではペケでも、ここでは洗いざらいムキ出し。ネタの安定感もバツグン。のっけから日本の夏はおろか国際社会にひきつった笑いを投下する河内音頭「テポドン音頭1号2号」で、いよいよぼくにも夏が来た。いやしかし、この爽やかな後味こそが河内音頭の真髄か。これぞまさしく、社会風刺をバンバン放り込んで大衆を踊らせた新聞詠み(しんもんよみ)・菊水丸の跡目継ぎソングだ。「しょせん~テポドンも~おとなのオモチャ~」、あっそれパパンがパン♪ と。 かくゆうぼくの今年のサマー・アンセムになったことは言うまでもない。
河内音頭はこれ1曲きりだが、コミック・ソングの王道を突き進む他の楽曲にしてもキレキレ。もはや掟破りとも言える某カルト教団残党のお縄までの逃亡ストーリーをやたらと平べったく歌った「高橋の高橋は皆、高橋だ」、「おまえ平田だろ?」、「相模原かくれんぼ」(サウンドはモンキーズ「デイドリーム」風!)に潜む妙なエレジー、一体何がどう自分に作用したんだろう? 不思議な気分にさせられる。不謹慎と笑いの狭間にあるギリギリ感やバカバカしさというのは、もしかしたら人間をすごく元気付けたりする源なのではないかしら。赤塚不二夫マンガ、東スポのトップ記事、LL COOL J太郎…さもありなんと。
このペケキング・テリー、コミック・ソングライターの腕前だけでなく、歌声やコンポーズ・センス一本でも十分勝負できる有能なシンガー・ソングライターとしての力量もどうやら並外れているようだ。往年のチューリップやふきのとうファンにもウケそうな、そんなレトロなフォーク・テイストでせつない心模様を歌う「ここに君がいた、こと」などは、ボヤボヤしていると結構泣けてしまうので、ある意味ご注意を。[次回9/4(水)更新予定]