──昨年公開の映画「さかなのこ」(沖田修一監督)で、さかなクンの役に抜擢されました。性別を超えた演技で、第46回日本アカデミー賞の優秀主演女優賞に選ばれました。
さかなクン役をできる人って、男性の中にも見当たらないですよね(笑)。沖田監督が私を面白がってくれてよかった。
そういえば、映画「海月(くらげ)姫」(14年公開)の撮影で、さかなクンのなじみの熱帯魚屋さんがスタジオにクラゲを持って来てくださったとき、「あまちゃん以来、お久しぶりでギョざいます」ってあいさつに来てくれたんです。しばらく楽しくおしゃべりしていたんですけど、お店の人が「さかなクーン、そろそろタコクラゲを出すよー」と言ったとたん、ビューッと飛んでいっちゃった。私はタコクラゲに敗北したんです。好きなことに突っ走ると、人を傷つけることもありますよね。あのとき私、傷つきました(笑)。
■多様な挑戦続く新アルバムも
──アーティストの古着をアップサイクルするブランド「oui ou(ウイユー)」を創設。第1弾では、故・忌野清志郎さんの私服から作った小物や雑貨などを販売しました。
ファンに宝物を届け、喜んでいただけると思うと、すごくうれしい。SDGs(持続可能な開発目標)への自分の答えはこれだっていう手ごたえを感じています。
──映画、音楽、アートなど多様な分野の先達が応援してくれています。
みなさん、あまちゃんを見た印象もあり、逆境に向かう人に「もっとやれ」という感じだと思います(笑)。
──音楽では、持ち歌が増え、ライブが充実してきましたね。
ふふふ。今年はアルバムを出そうと思って、いま準備中なんです。
──7月に30歳を迎えます。今後の抱負は?
(ジャンルを問わず)好きなことにどんどん挑戦していきたいですね。自分の中にはもっともっといろんな魅力があるはずだと信じ、それを発掘し続けたい。いつまでも「限界のない人」でいたいんです。
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この10年、あまちゃんを起点に、成長し、仕事の幅を広げてきた。16年に所属事務所から独立して「のん」に改名して以後、孤軍奮闘のようにも見えるが、彼女の周囲には、あまちゃんファミリー以外の才人たちも続々と集まり、さまざまなかたちで応援している。
そうした先達の期待に応え、俳優、声優、ミュージシャン、アーティスト、映画監督として千変万化、八面六臂の働きぶりを見せる。22年には「天間荘の三姉妹」など主演映画が3本も公開された。それを見るだけでも、活躍ぶりは一目瞭然だ。
その存在感に比してテレビ番組で見る機会は少ない。だからこそ、3月10日、日本アカデミー賞の授賞式でレッドカーペットを歩く姿に注目したい。(取材/文・佐藤修史)
※週刊朝日 2023年3月17日号