日本文化といえば、平安時代と江戸時代という感じがある。源氏物語と平家物語と忠臣蔵と水戸黄門。テレビと映画は、戦国時代と江戸時代である。どうも肩身が狭いのが飛鳥天平時代と室町時代だ。大河ドラマでも室町ものは視聴率が悪いらしい。飛鳥天平は宝塚歌劇ではドラマチックなのに、なぜか大河に取り上げられない。やはり天皇が兄弟で争ってるからか。室町時代の初期は二つの皇室があった南北朝なので、天皇関係にびくびくしてしまって、扱いづらいのかもしれない。でも、室町時代は面白いよ。雅楽や舞楽はどうにも異国風味だけれど、美しくかっこいい能が出てきて、室町に至ってついに「日本人のつくる日本の美」が確立した感がある。
その室町時代の、最重要人物である足利義満。私はこの人が世阿弥のパトロンであったこと以外に興味はなかったんだが、簡潔なタイトルであえて新書で出たことに興味をひかれてこの本を読んでみたら、実にまじめな足利義満研究の書だった。まじめで、面白い。
前半は、義満という男がどのようにして後世に伝えられるあの「義満」になっていったか、「義満」となってどんなことをやっていたかに費やされている。そして本書のキモは「日本国王」と名乗り、天皇になりたがった男としての足利義満研究だ。天皇になろうとした男に弓削道鏡がいて、後世極悪人とされたが、足利義満は悪くは言われるものの、道鏡ほどの目には遭っていない。最上位のまま、ちゃんと畳の上で死んでいる。これを読むと、その理由もわかる。周囲の空気と天皇家の状況、そんなものが合わさって、「もしかしたら天皇クラスの称号もらってもいいカモ」程度の軽い気持ちの話が、何しろコトは天皇であるから大ごとになったって感じである。
当時から、やっぱり天皇ってすごかったのだなと思わされる。21世紀に至って日本人が天皇制をよりどころとするのも無理はないなあ。と、そこのところにもっとも感心してしまった。
週刊朝日 2012年11月2日号