勢力の強い台風15号が首都圏を直撃せんとしていた日、私はネットカフェでじっと待機していた。どうしても観たい舞台があり、それが台風のなか上演されるというので、舞台が始まる2時間前の午後4時には現地新宿にいた。利用料金は2時間で1200円。暴風雨で交通機関が乱れると見越してのことだった。家から駅までタクシーを利用したので雨には全然濡れていない。

 外はかなり雨風が強く、道行く人の傘は呆気なくひっくり返るほどだったが、私はここでもほぼ濡れずに新宿駅からネットカフェに辿り着いた。地下道から行く裏道を知っていたからだ。

 ここまでの手はずは我ながら上出来だった。しかし同行の22歳のイケメンくんはバイトのために出遅れ、地下鉄が止まりタクシーもつかまらず劇に間に合わないかも、と連絡が来た。午後5時近くになると続々交通機関が運行を見合わせ始めたためだ。

 そしてにわかにネットカフェの受付が騒がしくなり、スタッフが「満室です!」と連呼している。入口に10人以上が列を作っている横をすり抜け、私はそそくさと劇場へと向かう。その時にはもう雨は止んでいた。けれどもほとんどの電車が動いていないので皆、ネットカフェで時間を潰そうとしていたのだろう。

 交通事情への考慮で上演開始時間が1時間遅れたため舞台に間に合ったイケメンくんと楽しかったね、と劇場を出て、一緒にパスタを食べて、そこまではいつものパターン。しかしそこでハプニングが起きた。彼の自宅に向かう路線が、まだ運転再開していなかったのだ。

「どうしよう」

 困る彼にもうネットカフェは満室だよと伝える私。顔をしかめる彼。朝まで一緒にカラオケでもする? と提案する私。微妙な空気が私たちの間に流れ始めた。

 ちなみに彼とはお互い何でも喋る親友と言える間柄で、恋愛関係というものでは全然ない。でも何やらドキドキする。ああ、もしかしたら都会のあちこちで台風から始まる関係が生まれつつあるのではないだろうか!?

「うーん......」 

 彼はしばらく考えてから、
「明日仕事だし、やっぱ家に帰って寝たいです」
 ときっぱり言った。その後すぐに電車の運転が再開され、彼は心底ほっとしたように帰っていった。私は去っていく彼の背中につぶやいた。

 私たち、いつまでもお友達ね......。