ただ、本当に宗教がらみの動機がすべてだったのかはわからない。山上容疑者が今年5月まで勤めていたという、京都府内の工場責任者はこう話す。
「2020年5月に人材派遣会社から募集をかけて、応募してきたのが山上容疑者でした。フォークリフトの運転士で、製品をトラックに積み込む仕事。最初はですます調で丁寧な言葉遣いだった。それが今年初めから、作業手順を守らないので注意すると『お前』と言葉が荒くなりトラブルが続いた。それが事件と関係あるのかはわからない」
しかし、今年4月には自ら辞めたいと申し出、有給休暇を消化した後、退職したという。
奈良県警によれば、現在は無職。自宅マンションの家賃は3万円台後半だったというが、経済面での行き詰まりなども、背景にあったのだろうか。
山上容疑者の母親は、現在、元々住んでいた家の近くで一人暮らしをしている。事件後には、この家にも奈良県警が捜査に訪れていた。
「お母さんは一人暮らし。お勤めになっていて、いつも、電動自転車で朝7時くらいに出かけて、夕方5時くらいに帰ってくる。息子さんは見かけたことがありません。こんなことになって信じられません」
今回の事件でもう一つ問われるポイントは、警護態勢に問題はなかったか、だ。奈良県警の会見によれば、警護担当者たちが明白に異変に気付いたのは、1発目の弾丸が発射された後だったという。前出の、現場を通りかかった女性は、当時の状況についてこう語る。
「2発目が撃たれてから、ちょっと間があってから、犯人の近くにいた人ではなくて、少し離れたSPのような人がスライディングのような感じで、犯人を押さえた。そのあとに2人、3人と犯人に覆いかぶさっていきました。1発目のときは、誰も動けていなかったように思います」
警視庁のある元SPはこう語る。
「事件の映像を見る限り、要人警護の態勢が不十分です。事件前、安倍元首相の背後に山上容疑者が何度も映っているが、一人でずっと後方に立っている。黒い大きめのカバンを持っているという時点で、警護担当者は気づかなければならなかった。拳銃をかまえられたり、ナイフを出して切りつけられたりする瞬間というのは、どんなに訓練しても体が固まって動けないのが本当のところ。それを起こさせないように、周囲を徹底的に囲んで警戒していると見せないといけないのだが、できていなかったようだ」