こうした例に限らず、顔を真っ赤にしながらもマスクを外すのをかたくなに拒む子どもは少なくない。三浦医師は患者と接した経験から、コロナ禍によって正反対になった価値観に子どもは混乱している様子だ、と話す。
コロナ禍に突入した2年前から、世間では「マスクをしないのは、悪いことだ」と声高に叫ばれてきた。なのに今度は、熱中症の危険があるから「マスクを外せ」と言われたところで、子どもたちは、「マスクを外して大人に怒られるほうが怖い」(小4女児)と怯える気持ちのほうが強いのだ。
というのも、学校でも「マスク外し」を積極的に呼びかけているとは言い難いようなのだ。
6月から各地の学校で熱中症による搬送が相次いだ。そうした事態を鑑みて、文部科学省は登下校時に加えて、体育や部活でもマスクを外す指導を改めて通知している。
都内のある公立小学校では、6月の猛暑日に校庭で短距離走の練習をしていた。
「先生から50メートルを走る時だけはマスクを外していいと言われているけれど、校庭で他の子が走るのを見て待っている間や移動の間は、マスクをつけなさいと言われている」(小3男児)
男児の母親が、子どもから「体育の間、頭がガンガンしていた」と話を聞いたのは、数日後だった。
「太陽が照りつける猛暑のなか、校庭を走らせたりマスクを装着させて校庭に立たせたりしていることに驚きました。低学年や中学年だと、自分の体調についても適切なタイミングで上手く説明できません。手遅れにならないか心配です」(男児の母親)
環境省と文部科学省が出す「学校における熱中症対策ガイドライン作成の手引き」には、気温と湿度、輻射(ふくしゃ)熱の3つを取り入れた温度の指標である「暑さ指数(WBGT)」が28~31度の場合、体温が上昇しやすい激しい運動は避ける、31度以上で運動は原則中止と記載がある。
学校も人手不足なのか、都内の別の公立小学校でも、こんな話が保護者の耳に聞こえてくる。