Xファクター出身歌手オリー・マーズとオノ・ヨーコがタッグを組んで送る、21世紀版「上を向いて歩こう」の魅力に迫る
Xファクター出身歌手オリー・マーズとオノ・ヨーコがタッグを組んで送る、21世紀版「上を向いて歩こう」の魅力に迫る
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 Xファクター出身の歌手として日本でも人気のイギリスのポップスター、オリー・マーズ。本国でもアルバム・チャート1位を記録した4thアルバム『Never Been Better / ネヴァー・ビーン・ベター』が1月14日、日本発売となる。その目玉として今回ボーナストラックに収録されるのが、坂本九の1961年のヒット「上を向いて歩こう」のオノ・ヨーコ訳による英語詞バージョン「ルック・アット・ザ・スカイ(Look At The Sky)」だ。

 「上を向いて歩こう」は日本人としては異例の全米ヒットとなったことで、「SUKIYAKI」の名で広く世界で親しまれる名曲。ただ、やはり日本語という言葉の壁もあり、その歌詞の意味までは必ずしも正しく伝わっておらず、様々な誤訳バージョンが生まれてしまった曲でもある。

 坂本九の「上を向いて歩こう」の発売50周年を記念する企画として、作曲者の中村八大の子息、中村力丸氏の発案によって2011年に始まった今回の英訳バージョンの制作では、「上を向いて歩こう」という曲の持つ本来の意味をできるだけ正しく世界に発信したいとの意向により日本文化と英語圏の文化の両方に明るい人選が必要であった。そこで抜擢されたのがオノ・ヨーコであり、その結果として完成したのがこの「ルック・アット・ザ・スカイ」だ。

 実際にオノ・ヨーコの手掛けた歌詞に目を通した時に興味深いのは、日本人同士なら違和感なく伝わるだろう歌詞の細かいニュアンスをどうやって英語圏のリスナーに伝えるか、ということに注意を払って英訳が行われていることだ。例えば歌いはじめのヴァース部分の歌詞<上を向いて歩こう>の<歩こう>の部分がオノ・ヨーコの訳した歌詞では、<Walk through life=人生を歩む>と訳される。考えてみれば、原曲の歌詞で<歩こう>というフレーズを聴いたとき、私たちはこの主人公がどこを/どこに歩いているのか全く意識せずとも曲のイメージに入り込むことができる。が、それを英語で正確に伝えようと思えば、当然そうした疑問が生じる。その上でオノ・ヨーコの英訳を読めば、なるほどこの曲における歩みとは人生の歩みのことなのだ、と腑に落ちるだろう。同じ個所の<上>=<Sky(空)>という翻訳に関しても、同じことが言えるだろう。

 上記はあくまで一例だが、単に日本語を訳しただけでは伝わらない微妙なニュアンスまでオノ・ヨーコは見事にすくいあげて歌詞に落とし込んでいる。これは自らもアーティストとして英語圏で意見表明しながら活動してきたオノの豊富な経験があってこその英訳だろうと思える。そういう意味では、実は英語圏のリスナーのみならず、日本人にとっても気付くところの多い英訳となっていると言える。

 その歌詞、そして、オリー・マーズの歌唱まで含めたトータルのサウンドとして言えば、オリーのバージョンは坂本九の歌った原曲よりもよりアッパーでポジティブに響く。象徴的なのは、坂本九版では間奏部でのみ聴くことのできた口笛が、オリーのバージョンではイントロから鳴っていることだ。原曲では、悲しみをこらえて、どこか健気に強がって見せるように響いていた口笛が、オリーのバージョンでは、聴き手へより直接的に軽やかに呼びかけるように響く。つまるところ、今回のオリーの「ルック・アット・ザ・スカイ」は、ただ単に歌詞を英訳しただけに留まらず、曲そのものも、21世紀の社会においてグローバルに訴求を発揮しうる"希望のうた"として翻訳されているということだ。その意味でも、やはり長年に渡って平和活動を継続してきたオノ・ヨーコほどの適任はいなかったのだろうと思える。

 今回の国内盤への収録がきっかけとなり、「Look At The Sky」とともに「上を向いて歩こう」という曲がいま以上に話題となって、他の様々な地域との交流のキッカケとして拡がっていくとしたら、これほど理想的なことは無いように思う。が、まずはそこまで大きく構えず、日本に住む人々に贈られたギフトとして親しみたい一曲だ。

◎リリース情報
『Never Been Better / ネヴァー・ビーン・ベター』
2015/01/14 RELEASE
EICP-1619 スペシャル・プライス 2,200円(tax out.)