「プーチン大統領の戦争」は、どれだけの苦しみを、ウクライナの女性たちに与えているのだろうか。ロシア軍の陣地に近いウクライナ南東部・ザポリージャ市で、心を痛めたウクライナ人女性たちを支える女医がいる。「月経が、戦争の恐ろしさで止まった」といった苦しみを聞き、助言をする。筆者がインタビューをするうち、彼女自身、大粒の涙をこぼし始めた。(岡野直=ザポリージャ)
【写真】奇跡的に助かった患者の頭蓋骨の画像に写っていたのは…
ザポリージャ州は、ロシアが一方的に編入した南部クリミア半島と東部ドンバスをつなぐ交通の要衝。州都を含む北部はウクライナ側の管理下にある一方、南部をロシア軍が占領している。
ザポリージャでロシアが占領した地域を、ウクライナ軍が取り戻すために攻撃するかもしれないーー。筆者はそんな情報を首都キーウで地元ジャーナリストから聞いた。ザポリージャ市は、両軍の最前線から十数キロ。「準前線の町」と呼ばれるそこを訪ねた理由の一つは、婦人科医のジャンナ・マカロワさん(51)に会うためだった。
「月経が6カ月ありません」
ジャンナさんが院長のクリニック「ラフマン医院」に20歳の女性患者が訪れた。ロシアの本格侵攻が始まってまもなくのこと。患者は「お話を聞いていただきたくて来ました」と訴えた。ジャンナさんは1時間余り、耳を傾け、女性ホルモンを改善する薬などを処方した。
「空襲警報が毎日なり、砲撃音も聞こえる。女性がストレスを感じないはずがありません」
とジャンナさんは言う。ホルモンのバランスが崩れ、月経に異常が起きたり、乳腺に痛みを感じたりする患者が増えている。
クリニックは、入口や窓を全て、厚さ1センチの木の板で覆っている。砲弾が近くに着弾した場合、ガラスが飛び散り、危ないからだ。
ジャンナさんがエコー(超音波)検査で、中年女性の乳房にがんらしい腫瘍を見つけた、その瞬間。「ウー、ウー」という空襲警報が鳴った。診察室付近に着弾すれば、外壁が崩れ、砲弾の破片が飛び散る危険がある。ジャンナさんは女性患者を病院奥の廊下に連れこみ、イスに並んですわって説明を続けた。「大丈夫です」と励ましながら、がんの治療が可能な大きな病院を紹介した。