ラナ・デル・レイ約2年半ぶりのアルバム『Ultraviolence』が、UKチャート初登場1位に続き、全米アルバムチャート“The Billboard 200”でも初登場1位を獲得。かねてよりダン・オーバック(ザ・ブラック・キーズ)をプロデューサーに迎え制作が進められていた『Ultraviolence』だが、Billboardでの首位獲得を達成し、シングル/EP/アルバムとすべてのラナ作品を通じて初めての本国1位となる。ちなみに、前作アルバム『Born to Die』は最高2位だった。
4月にリード・シングル「West Coast」がリリースされたものの、なかなか詳細情報が伝わってこなかった『Ultraviolence』。5月初頭にいよいよアートワークや収録曲が、次いで5月中旬に発売日が発表されると、あたかもアルバムへのカウントダウンのように「Shades of Cool」、「Ultraviolence」、「Brooklyn Baby」といった楽曲群を立て続けにダウンロード・リリースしてしまった。かくしてアルバム『Ultraviolence』は一気にそのヴェールを脱いだわけだが、不穏なタイトルからも予期出来ていたように、表題曲は暴力と隣り合わせの愛を綴った、余りにも哀しいラヴ・ソングであった。
ザ・ブラック・キーズのダンによるプロデュースは、これまでダンス・ポップ風の楽曲も残してきたラナの作品に、穏やかだが気怠いサイケ・ロック・サウンドで統一感をもたらしている。5月にリリースされたザ・ブラック・キーズの新作『Turn Blue』(こちらもThe Billboard 200で1位を記録)と同様、ナッシュビルにあるダン所有のイージー・アイ・サウンドがレコーディング・スタジオのひとつとして使用されており、2つのアルバムにはどこか共通したムードも漂っている。『Ultraviolence』の、メロトロンやペダルスティールが用いられた美しくじわりと広がるサウンドのレイヤーは、ラナの一貫して物憂げなヴォーカルの伸びと揺らぎをしっかり包み込んでいて素晴らしい。
ラナがかつて歌った「Video Games」と同様に、『Ultraviolence』には、恋とアルコールと音楽に溺れるしかなかった哀しい青春の情景が歌い込まれている。悲痛に震える声で歌われる「Pretty When You Cry」や、まるでエンディング・テーマのように届けられる本編ラスト「The Other Woman」(ジェシー・メイ・ロビンソンのカヴァー)といったふうに、ひたすら救いのない物語の中で楽曲の美しい響きだけが確かな効力をもたらすアルバムだ。音楽の本当の力を試すアルバム、と言ってもいい。流行り廃りを投げ打って、ラナの歌を引き立てることだけを念頭に置いたアレンジとプロデュースは、皮肉にもと言うべきか、エイミー・ワインハウス~アデルというUK新古典派が活躍してきた昨今のシーンの中で、米国が待ち望んでいた「アメリカ新古典派」の傑作アルバムを生み出したのだ。
Text:小池宏和
◎リリース情報
『ウルトラヴァイオレンス』
2014/06/18 RELEASE
UICS-1280 2,376円(tax in.)