この夏、エンタメ小説とノンフィクションで、ヤングケアラーをテーマにした意欲作が相次いで出版された。丸山正樹さんの『キッズ・アー・オールライト』と、村上靖彦さんの『「ヤングケアラー」とは誰か』だ。社会的に「見えない存在」にスポットライトを当ててきた小説家と、現象学が専門の哲学者。異色の初対談で二人は何を語ったのか。
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丸山:『キッズ・アー・オールライト』を書くにあたって、いくつかの文献を参考にさせていただきました。そこで紹介されている子どもたちの過酷な状況に衝撃を受けたのですが、村上さんの『「ヤングケアラー」とは誰か』の衝撃は、格別でした。例えば第2章、「言えないし言わない、頼れないし頼らない」のAさん。
村上:母親が覚醒剤依存でした。Aさんが中学3年生の時に2回逮捕され、実刑判決を受けます。そんな苦境の中をAさんは生き抜いてきました。
<『「ヤングケアラー」とは誰か』は7人のヤングケアラー経験者へのインタビューと、その分析を基に支援のあり方を模索。長期脳死の兄や障害のある母親、過量服薬で救急搬送を繰り返す母親など、さまざまな背景を持った家族のケアがつづられている>
丸山:母親が逮捕される時、注射器やストローといった覚醒剤使用の証拠となるものが見つからないようにAさんが始末したり、逮捕後に供述書を細部まで読んだり……彼女が経験した事実に打ちのめされる思いでしたが、一方でこう思ったのです。「ああ、『うさこ』がここにいる」と。既視感のような、不思議な気持ちを抱きました。また、大阪市西成区のNPO法人「こどもの里」について紹介されていますが、代表の「デメキン」さんやスタッフの「ガニ」さんの言動に触れて、「まさに子供の家だ」と驚きました。小説では「こういう大人たちがいたらいいな」と願望を込めて書いたのですが、実際にそういった方々がいらっしゃった。
<うさこは『キッズ・アー・オールライト』の主人公の一人。「家は豚小屋、ゴミ屋敷。妹はお腹空かせて泣くし、弟はおしっこでたっぷんたっぷんになったオムツでそこらじゅう這っとる」のセリフから分かるように、厳しい家庭環境で育ち、子どもの頃から幼いきょうだいのケアをしていた。援助交際を経験した後、子どもの人権救済活動に関わるNPO法人「子供の家」でピアカウンセリングなどを手伝う>