相手を傷つけてしまったら?それに、何か大きなチャンスを逃してしまうかもしれない。

 たしかに、簡単なことではない。しかし、イヤなことだけでなく、時には魅力的なこと、やりたいことにも「ノー」と言わなければならない。

 大切なのは、忙しさを崇拝していると、知らず知らずのうちに自分が忙しくなるような選択をしてしまうということだ。私たちは、自分の欲しいものを明確に定義しなければならない。自分のスケジュールを完全にコントロールしたいなら、勇気をもって正しい選択をしなければならない。

◆必要なのは時間ではなく、余白

 世間にはびこる「短期主義」が好きな人などほとんどいない。いつも目がまわるほど忙しく、まるで同じところを延々と走り続けるハムスターだ。ほぼ確実に間違った目標だとわかっているのに、それでも目標達成のために突っ走らなければならない。

 とはいえ、世間の大きな流れに背を向けるのはかなりの勇気がいる。内面の強さも、外面の強さも必要だ。内面の強さが必要なのは、自分と向き合い、「自分は何者か?」「本当に欲しいものは何か?」という難しい質問に答えなければならないからだ。いまだに会社にいる時間や仕事量だけで生産性を評価する上司や同僚、クライアントと対決するためには、外面の強さも必要だ。

 だが、自分のために選択しなければならない。

 まずはじめに重要なのは、「変わることはできる」と信じることだ。

 もう何年も前、デビッド・アレンと会う機会に恵まれた。アレンは生産性についてのベストセラー、『ストレスフリーの整理術:はじめてのGTD』(二見書房)の著者として有名だ。拙著『Stand Out』(未邦訳)のためにインタビューをしたときに、彼は面白い話をしてくれた。

「いいアイデアを思いつくのに時間は必要ない。必要なのは余白だ。頭の中に余白がないと、まともに考えることもできない。革新的なアイデアを思いついたり、何かを決めたりするのに必要な時間は、ゼロだ。しかし頭の中に余白がないと、アイデアや決断が不可能になるというわけではないが、理想的な結果にはならないだろう」

 つまり、長期の戦略的思考に何百時間もかける必要はないということだ。とはいえ、頭の中に余白がなければ考えることはできない。戦略的思考を磨く最初のステップは、重要でないものを排除することだ。