この「自分は価値のある存在だ」と思いたいという気持ちが、私たちが忙しさを求める強力なインセンティブになっている。
◆忙しい人は、自分の人生をコントロールできていない
この世界は短期の思考の誘惑であふれている。私たちはただ下を向き、目の前のことだけを考えている。ともかく職場ではそれが一番賢い態度だ。それに人間心理も、短期思考のほうが楽だと感じてしまう。
企業のトップに尋ねれば、みな口をそろえて、「長期の戦略的思考が欠かせない」と答える(97%の人間が賛成するようなことがほかにあるだろうか?)。この前提が正しいことははっきりしている。問題は、どこから始めるかということだ。
まずはデレク・シヴァーズの話を聞いてみよう。
シヴァーズはミュージシャンとしてキャリアをスタートし、その後オンライン音楽ショップ「CDベイビー」を設立して起業家に転身した。この会社は2008年に売却に成功している。
たいていの起業家は、ここでまた新しい事業を始めたり、エンジェル投資家になったりするが、シヴァーズは違った。外国(シンガポール、ニュージーランド、イギリスのオックスフォード)へ移住し、執筆に専念したのだ。
彼にとって、忙しさは社会的なステータスではなく、単なる苦役だ。「いつも忙しさをアピールするような生き方には、大いに疑問をもっている」と、私に話してくれた。
「そういう人たちは自分の人生をコントロールできていない。とてつもなく成功している人に何人か会ったことがあるけれど、誰もが穏やかで、落ち着いていて、こちらの話をすごく集中して聞いてくれた。彼らはすべてをコントロールしているようだ。自分もああいうふうになりたいね」
尊敬する人のタイプを変えることは、強力な最初の一歩になる。とはいえ、つねに余裕のあるスケジュールで、最も大切なことにたっぷり時間を使っている人を尊敬したからといって、すぐに彼らのようになれるわけではない。
優秀なプロフェッショナルであれば、対応しきれない量のお誘いや仕事の話が来るものだ。そのうちのいくつかは、絶対に断らなくてはならない。すべてを引き受けるのは物理的に不可能だ。とはいえ、ただ「スケジュールに余白が欲しい」という理由で、いくつかの話、あるいはほとんどの話を断るなんて、本当にできるのだろうか?