これまで寄席に行く機会がなかった読者のために、Kに一之輔師匠の落語の魅力を聞いてみた。

「落語が素人(寄席3回しかいったことない担当者)でもわかりやすいんです。目をつぶっててもストーリーや人物がよくわかるんです」

 連載を数年間担当してきて3回しか行ったことがないKにあきれつつ、本当にいいものはその道のプロでなくとも価値がわかるというが、師匠の落語もそうなのだと思った。師匠が登場して話し出すと、聞いているこちらは体の中から「おもしろさ」が湧いてきて、気づいたら声を出して笑っている。一之輔師匠の寄席や独演会はそんな特別な空気感がある。

 Kと一之輔師匠との初顔合わせの場を思い出した。筆者もKの上司として同席。寄席が終わったあと、浅草の小料理屋の2階で宴席を設けた。

 Kはいつになく大きな声で一方的に話し続け、呼吸の合間に酒を流し込み、さらに饒舌に語り、23時になると、急に「終電ありますから、スミマセン、スミマセン」と主賓を置いて、嵐のように去って行った。Kは緊張していたようだった。周囲もドン引きの空回りぶりで、直後、その場になんともいえない空気が流れたのは言うまでもない。

 宴もたけなわというころ、師匠が何とはなしに言った。

「Kさんは気いつかいだね。あんだけ話して、いい人だよ」

 さりげないフォロー。実に懐が深い。

 Kはいわゆる"できるタイプ"とは言い難い。ただ、正直で一生懸命な人だ。そんなKと連載で毎週やりとりを続け、書籍も3冊出している。本当に懐が深いのだ。国民的番組の新メンバーとなった一之輔師匠には、能力やスキルだけではない、寛容さ、人間くさい「徳」が備わっていることを、笑点の視聴者に伝えておきたい。(AERAdot.編集部 鎌田倫子)

※連載「ああ、それ私よく知っています。」を読む

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