クルーズ船内で新型ウイルスの感染拡大を招いた政府の対応が批判されている。今後に向けた有効な解決策として、「病院船」を整備する案が急浮上した。 AERA2020年3月2日号で掲載された記事を紹介する。
* * *
新型コロナウイルスによる肺炎の集団発生に対し、日本政府は英国籍のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗員、乗客約3700人を下船させず、船内感染が拡大した。このため関係諸国で批判が高まり、各国が救援機を派遣し船内の自国民を帰国させる事態となった。
他国の懸念はもっともだが、日本側からすれば感染の疑いがある人々を上陸させるのは危険だし、隔離できる施設は少ないから、潜伏期間は船内にとどまってもらうのはやむをえない措置だったとも言えよう。武漢などからチャーター便で帰国した人々を受け入れた千葉県勝浦市の勝浦ホテル三日月が称賛されたのも、施設不足の裏返しだ。
この状況の中、国会では1995年1月の阪神・淡路大震災後から唱えられてきた「病院船を保有すべきだ」との論が再燃し、実現の可能性が出てきた。
本来病院船は、海外で負傷、発病した将兵を治療、送還する船だ。自衛隊が海外で戦闘する可能性は低いため、日本では不要と思われがちだった。
だが周囲が海の日本では、移動病院である病院船は災害派遣で効果が大きい。近年、外国の病院船は海外での災害救援で活躍したり、開発途上国での医療など人道支援を行ったりして友好関係の増進に役立っている。
2月12日の衆議院予算委員会では赤澤亮正議員(自民)が「最近の自然災害の激甚化と頻発化、新型コロナウイルスの脅威に対応する目的で政府が病院船を建造、保有することを提言したい。被災者の救護とか支援物資や入浴サービスの提供、感染症の場合の隔離、治療に当たるのはいかがか」と質問した。
加藤勝信厚生労働相は「道路が寸断され、医療機関自体が被災する場合は、東日本大震災でもあった。病院船を活用できないかはこれまで党、あるいは党を超え、内閣府、防衛省とも議論されてきた。病院船の配備のあり方を加速度的に検討していく必要があると認識している」と積極的な答弁をした。