70歳まで働く時代の鍵は「自宅」の仕事環境にある。快適かつ、生産性高く。仕事するなら会社のほうが効率いいなんて、もう言わせません。AERA2020年2月17日号は、理想の住空間づくりの例を紹介する。
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ワークは会社で、ライフは家で。そんな常識は過去のもの。
今後の働き方の変化を見据えて、一昨年、リノベーションを前提に中古マンションを購入したのは井上一鷹さん(36)。リノベーション事業者の「リノベる。」を利用し、理想の住空間を実現した。
井上さんはメガネのJINSに勤め、集中力を測定できるメガネ型デバイス「JINS MEME」の事業統括をしてきた。さらに、その研究成果を用いて開発したワークスペース「Think Lab」を事業化し、その取締役も務める。つまりパフォーマンスと空間について考えるのが本業。自宅のリノベーションは、自らの生活を実験台にした働き方の試行錯誤でもある。
「1人が1社だけに勤めていた時代には、企業が働く場所を用意してくれた。でも副業解禁で複数の企業から仕事を受ける時代になれば、個々の会社が場所を用意してはくれない。働き場所は自分で選択する時代になると考えています」
パフォーマンスを上げられる空間を自分でどう作り出していくか。それを特に住居の狭い東京でどう実現できるか。出した答えが、現在の1LDKの住まいだ。
特徴は各スペースの目的をはっきりさせたこと。
「仕事の電話をする時の緊張状態と、オフで超リラックスする状態が、同じ空間でできると思えないんです」
ダイニングのテーブルは、「人と喋(しゃべ)る」ためのスペース。ファミレスのようなボックス席をイメージし、テーブルも椅子も固定した。ここが会議室代わりでもあり、人を呼んで打ち合わせをすることも多い。
ダイニングに隣接するリビングは「くつろぐ」ための空間。床の高さは20センチ下げた。
6畳半の洋室は3畳を「寝る」ための寝室に。もう半分は「一人で集中して作業する」ワークスペースとした。寝室部分には身長ほどの高さの仕切りを設け、ここにも段差をつけた。さらにスペースによって暖色系・寒色系と照明の色を変える工夫も。これでメリハリのついた過ごし方が可能になった。
「僕は意志が弱いので、ベッドがあったら絶対寝てしまうし、家で仕事するには、自分を律する仕組みを自分で作らないといけない。床の高さが変わったときは、気持ちを切り替えるとき、と自分の中で決めてしまうと、楽にモードを替えられるんです」
切り替わったオンの状態を、さらに生産的にするために何ができるか。