タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
【写真】来日し帰国する際、見送りの人たちと言葉を交わすフランシスコ教皇
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ローマ教皇が信者の手を叩いて謝罪──世界中で話題になったこの事件への内外の反応はとても興味深いものでした。昨年の大晦日の夜、バチカンのサン・ピエトロ広場に集まった信者たちの最前列にいた女性が、立ち去ろうとする教皇の手を取り、何かを訴えながら強く引き寄せました。教皇は体勢を崩し、手を離さない女性に何かを言いながら2度ほど手を叩いて振り払い、苦々しい顔でその場を去りました。動画にはその一部始終が収められていました。
手を叩くという暴力行為に及んだことが非難され、教皇は翌日、広場に向かって演説し「私たちは忍耐を失うことが何度もある。私もだ。昨日の悪い事例について謝罪する」と述べました。
この謝罪についてTwitterを検索すると、英語のツイートでは教皇への失望や怒りの声が大半で、カトリック教会の子どもへの性加害問題の対応の遅れに言及して批判する声もありました。一方、日本語のツイートでは「失礼な信者の女が悪い」「おじいちゃんなのに引っ張ったら危ない」と女性を非難する声が圧倒的に多かったのです。信仰を持つ人が少ないことに加えて、権威主義や女性蔑視が背景にあるように感じました。
教皇はただの「偉いおじいちゃん」ではなく、世界的な宗教指導者であり、13億人のカトリック信者のほか多くの人々にとって、平和の象徴でもあります。その立場にある人の行動が人々にどのようなメッセージを与えるのかという視点で、女性への暴力を肯定するような行動が批判されたのです。
教皇は白人男性で、手を引いた信者はアジア人女性でした。この構図にも、現実の問題が象徴されています。もしも信者が白人男性だったら教皇の反応は違っていただろうか、日本のTwitterの反応も違っただろうかと考えずにはいられませんでした。
※AERA 2020年1月20日号